2025年9月 ブラジル関連情報
- Wakana Iwata
- 10月3日
- 読了時間: 74分
1.ルーラ政権
(1)ルーラ大統領は28日、50%のトランプ関税に対抗するため、経済相互主義
法の適用に向けた手続の開始を命じた。これにより、貿易審議会(CAMEX)は、外務
省からの通告を受け、トランプ関税が経済相互主義法の適用対象となるか否かについ
て検討を行い、30日以内に報告書を提出することとなった。CAMEXが「経済相互主
義法は適用されるべき」と判断した場合、省間連絡委員会が設置され、具体的な対抗
措置について検討が行われる。アルキミン副大統領は、「これにより、米国との対話
が加速することを期待している」と述べた。ルーラは29日、「今は米国との対話を
望んでおり、対抗措置を急ぐつもりはない。経済相互主義法の適用に関する検討を命
じたのは、(仮に適用することになったとしても、そのための)手続に時間がかかる
ことと、伯が子供扱いされないようにするためである」と述べた。(8月29日及び
30日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)連邦警察と歳入庁は28日、サンパウロ等、10の州において、犯罪組織
「PCC(首都第1コマンド)」の資金洗浄及び脱税に関する大掛かりな強制捜査
(Operação Carbono Oculto)を実施した。PCCは、燃料に不純物を混入して水増しし
た上で、傘下のガソリンスタンド(サンパウロ州だけで1千軒以上)で販売し、その
利益をフィンテックやデジタル・バンクに投資していた。その額は、過去4年間で
520億レアルに上り、脱税額は76億レアルに達している。裁判所は、10億レア
ル以上の金融資産の凍結、不動産192件及び車両1500台の差し押さえを命じた
。今回のオペレーションは、過去最大規模とされており、サンパウロの金融街「ファ
リア・リマ」を直撃した。ルーラ大統領は、「本日、国民は、国家の組織犯罪に対す
る最大級の反撃を目の当たりにした」と表明。尚、今回のオペレーションに関する記
者会見には、サンパウロ州政府及び検察の代表も参加したが、連邦政府サイドは、連
邦政府の手柄であることを強調した。フレイタス・サンパウロ州知事の大統領選出馬
を警戒してのことと見られる。(8月29日付コレイオ・ブラジリエンセ及びフォー
リャ・デ・サンパウロ)
(3)ルーラ大統領は29日、ミナスジェライス州知事を訪問した際、明年の大統領
選ではライバルになると見られているフレイタス・サンパウロ州知事とゼマ・ミナス
ジェライス州知事を批判した。フレイタスに関しては、「フレイタスが大統領になれ
ば、ボルソナーロの言いなりになるであろう。ボルソナーロがいなければ、(フレイ
タスには)何の価値もない。それは彼(フレイタス)も分かっているはずである」と
批判した。AtlasIntel社が「大統領選の決選投票ではフレイタスがルーラに僅差
(48.4%対46.6%)で勝つ」との世論調査結果を発表した件に関しては「(
世論調査では)勝つと言われていた人が実際の選挙では票を取れなかったという例は
いくらでもある」と述べた。ゼマ知事に関しては「(ゼマ知事に)1%でも誠実さが
あれば、ミナスジェライス州がボルソナーロ政権とテメル政権から得た予算よりも多
くの予算をルーラ政権から受け取っていることを認めざるを得ないであろう」と述べ
た。(8月30日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(4)米民主党のオカシオ=コルテス下院議員は、国防予算法案の修正案を提出した
際、「トランプ政権は、国家安全保障上の緊急事態を宣言して、伯に50%の関税を
かけたが、伯の如何なる政策や慣行が米国の安全保障や外交政策や経済に突出した脅
威をもたらしているというのか」として、米国政府に具体的な説明を求めた。但し、
民主党は少数派であることから、この要請が通ることはないと見られている。(9月
1日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
2.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)英エコノミスト誌は、28日発行の最新号に「伯は、ボルソナーロ前大統領や
三権襲撃犯を裁判にかけることにより、成熟した民主主義とはこうあるべきである
との教訓を世界に与えている。それに比べて、トランプ大統領を擁する米国は、益
々、腐敗し、保護主義的で、権威主義的となっている」との記事を掲載し、トラン
プの圧力にも拘わらず、伯がボルソナーロの裁判手続が粛々と進めていることを称
賛した。同誌の表紙を飾った「What Brazil can teach America.The trial of Jair
Bolsonaro」との見出しと、米国議会を襲撃した「バイキング男」に扮したボルソナ
ーロのイラストが注目を集めている。(8月29日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)STF判事の間では、ボルソナーロ前大統領がクーデター未遂裁判で有罪となった
場合、陸軍の収容施設ではなく、ブラジリアのパプダ刑務所の特別房又は連邦警察ブ
ラジリア支局内の特別房に収監する可能性について話し合われている。尚、健康上の
理由により、自宅軟禁の継続が認められる可能性もある。尚、ボルソナーロが全ての
罪状に関して有罪となった場合、12年から43年の禁固刑が言い渡されるが、仮に
禁固43年となった場合、最初の7年間は、閉鎖式の刑務所で服役することになる
。(8月29日及び30日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-SP)は、フレイタス・サンパウロ
州知事(Republicanos)がボルソナーロ派の大統領候補として出馬することに激しく
反発しており、仮に父ボルソナーロがフレイタスを支持したとしても、米国から次期
大統領に立候補すると周囲に語っている。エドゥアルドは、「フレイタス知事は、PL
から大統領選に出馬するであろう」とのヴァルデマール・コスタ・ネット・PL党首の
発言に対しても激しく反発しており、フレイタス知事がPLに入党したら、ボルソナー
ロ一家はPLを離党すると述べている。尚、エドゥアルドは、モッタ下院議長に対し、
米国からリモートで議員活動を続けるための許可を求めている。モッタ議長は1日、
右に関し、「下院の内規に基づいて決定する。特別扱いはしない」と述べた。(8月
30日付フォーリャ・デ・サンパウロ及び9月2日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(4)フレイタス・サンパウロ州知事(Republicanos)は29日、インタビューに応
じた際、連邦最高裁判所(STF)を批判した上で、「自分が大統領になったら、まず最
初に、ボルソナーロ前大統領に恩赦を与える。それは、今、行われているクーデター
未遂の裁判が根拠のないものだからである」と述べたが、その後、「自分は大統領候
補ではない。全てのサンパウロ州知事は大統領候補となり得るので、仮定の話をした
だけである」と付け加えた。エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-SP)は1日
、「フレイタスは、優秀な実務家ではあるが、ボルソナーロの支持者達が望んでいる
ような大統領候補ではない。右派の大統領候補は、ボルソナーロの名を持つ者でなけ
ればならない。自分は大統領に立候補するつもりはないが、必要であれば、右派を代
表して出馬する」と述べた。(9月1日付フォーリャ・デ・サンパウロ及び2日付コ
レイオ・ブラジリエンセ)
(5)2日、連邦最高裁判所(STF)第1小法廷において、クーデター未遂に関する
裁判(ボルソナーロ前大統領、ブラガ・ネット元文官長等、8名からなる第1グルー
プ)が開始された。大統領経験者や軍の元高官がクーデターの容疑で裁判にかけられ
るのは、伯史上初めての出来事であり、ワシントン・ポスト、NYT等、海外メディア
からも注目を集めている。尚、ボルソナーロは出廷せず、自宅から裁判の成り行きを
見守ることにしている。午前9時、第1小法廷のザニン裁判長が開廷を宣言した後、
報告官のモラエス判事が本件の経緯と起訴状の内容をまとめた報告書を読み上げた。
モラエス判事は、「STFが外国の意向に沿うよう画策する犯罪行為があった。STFの
役割は、国内外の圧力は無視して、公正な裁判を行うことにある。圧力に屈すれば、
不可罰性と憲法違反がのさばることになり、(国情の)健全な安定化が損なわれ、新
たなクーデターの試みを助長することになる」と述べた。続いて、ゴネー検事総長に
よる口頭弁論が行われた。同検事総長は、「クーデター未遂を犯罪として処罰しなけ
れば、強権主義の台頭を許し、文明社会を脅かすことになる。ボルソナーロ前大統領
は、クーデター未遂を主導していた。ボルソナーロは先ず、民主主義の崩壊を正当化
するため、司法や選挙制度を攻撃し、2023年1月8日には支持者を先導して三権
を襲撃させた。また、ボルソナーロは、当時の各軍司令官を招集してクーデター計画
について話し合ったが、これは既にクーデターに着手していたことを意味する」とし
て、ボルソナーロ等、被告8名の有罪を主張し、禁固43年の刑を求めた。2日午後
からは、各被告の弁護人による口頭弁論が行われた。最初にマウロ・シディ元大統領
付副官の弁護士が「マウロ・シディは、強制されて司法取引に応じたのではない。よ
って、その供述は有効であり、相応の減刑が認められるべきである」と主張した。こ
の後、アレンシャンドレ・ラマージェン下院議員(PL-RJ)等の弁護士による口頭弁論
が行われた。(9月2日付ヴァロール・エコノミコ電子版及びUol)
3.連邦議会
(1)28日、年金受給者から組合費等が詐取されていた件に関する議会合同調査委
員会(CPMI)では、年金問題を担当している連邦弁務官の参考人招致が行われた。同
弁務官は、「詐取が最初に記録されたのは、2019年(ボルソナーロ政権の1年目
)であり、それ以降、急速に拡大した。低所得層の高齢者、先住民等、社会的弱者が
標的になっていた。連邦弁務庁(DPU)は、早い段階から電話相談サービスを通じて
組合費等の支払いをキャンセルできるようにする等の対策を提案した。DPUは昨年、
連邦検察庁、国家社会保障院(INSS)等と共に、本件に関する作業部会を立ち上げ、
昨年3月には、年金から自動的に組合費等を天引きすることを禁じるとの規則が作ら
れた」と証言した。これに対し、ロドリゲス政府上院院内総務(PT)は、「不正がボ
ルソナーロ政権から始まったのは明らかである。2019年の当時から個人情報の漏
洩や生体認証の悪用を防止するための方策が提案されていたが、ボルソナーロ前大統
領はこれを却下した。不正が明るみに出たのは、現政権のお陰である」と畳みかけた
。野党は、DPUの怠慢を指摘したが、弁務官はこれに反論した。(8月29日付コレ
イオ・ブラジリエンセ)
(2)下院では、与野党が連邦議員の裁判管轄特権の見直しに関する憲法改正案
(PEC da Blindagem)の早期成立を求めていたが、SNS上で批判が殺到したため、与
党と中道派勢力(セントラン)は早々に支持を引っ込めた。野党PLは最後まで同PEC
を支持していたが、批判の嵐にさらされた結果、カヴァルカンテ・PL下院院内総務は
28日、「同PECは最早優先事項ではない」と折れた。これにより、同PECは廃案に
なる公算が大きい。(8月29日付コレイオ・ブラジリエンセ)
4.外交
(1)メキシコを訪問したアルキミン副大統領は28日、同国のシェインバウム大統
領と会談し、航空産業、保健、バイオ燃料等の分野における協力関係の強化について
協議し、貿易と投資に関する二国間協定の拡大に関する議定書に署名した。アルキミ
ンは会談後、両国の補完的貿易協定の交渉が明年7月に妥結するとの見通しを発表し
た。(8月29日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)ホワイトハウスは28日、トランプ米大統領が本年の国連総会に出席すること
を確認した。これにより、トランプが伯に対する攻撃を始めてから初めてルーラ大統
領と顔を合わせることになった。一般討論演説の順番は、一番手が伯で、その次が米
国となっている。(8月29日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)2日、連邦最高裁判所(STF)第1小法廷において、クーデター未遂に関する
裁判(ボルソナーロ前大統領、ブラガ・ネット元文官長等の第1グループの被告8名
の裁判)が開始された。第1小法廷のザニン裁判長が開廷を宣言した後、報告官のモ
ラエス判事が本件の経緯と起訴状の内容をまとめた報告書を読み上げた。モラエス判
事は、トランプ米大統領の介入を批判し、クーデター未遂の首謀者を処罰しなければ
、国情が安定することはないと強調した。続いて、ゴネー検事総長による口頭弁論(
被告全員の有罪を主張)が行われた後、8名の被告の内、4名の口頭弁論が行われた
。マウロ・シディ元大統領付副官の弁護士は、「マウロ・シディは、強制されて司法
取引に応じたのではない。よって、その供述は有効であり、相応の減刑が認められる
べきである」と主張。この後、アレンシャンドレ・ラマージェン下院議員(PL-RJ)、
ガルニエール元海軍司令官及びトーヘス元法務治安相の弁護士による口頭弁論が行わ
れ、何れの弁護士もマウロ・シディの供述は無効であるとして、無罪を主張した。ト
ーヘスの弁護士は、トーヘスの自宅からクーデターの実施に関する大統領令の草案が
発見された件に関しては「インターネット上で出回っていた怪文書の類であり、偶々
、印刷された物に過ぎなず、トーヘスはその作成に関与していない」と主張した
。(3日付コレイオ・ブラジリエンセ及びフォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)裁判2日目の3日、ボルソナーロ前大統領、ブラガ・ネット元文官長、エレー
ノ元大統領府安全保障局長官及びノゲイラ元国防相の口頭弁論が行われた。ボルソナ
ーロの弁護士は、「ボルソナーロが緑と黄色の短剣計画(ルーラ、アルキミン及びモ
ラエスの暗殺)、望遠鏡オペレーション(モラエス判事の監視)、並びに三権襲撃に
関与したとの証拠は何一つない。ボルソナーロは、これらの事案に関する捜査に巻き
込まれただけである。検察は、クーデターが成功しなかったのは、全ての軍司令官の
支持を得られなかったからであると主張しているが、仮にそうであれば、ボルソナー
ロは、司令官を代えることもできたはずであるが、実際はそうしなかった」と強調し
た。但し、ノゲイラ元国防相の弁護士は、「ノゲイラは、ボルソナーロにクーデター
は思い止まるよう、説得した」とボルソナーロに不利な主張を行った。尚、何れの弁
護士も「マウロ・シディ元大統領付副官の供述は二転三転しており、信用できない。
検察の起訴状や警察の捜査報告書は、この根も葉もない作り話を根拠としている」と
主張した。これにより、口頭弁論は終了し、3日目の9日(火)からは各判事による
審理が行われる。(4日付コレイオ・ブラジリエンセ)
2.ルーラ政権
(1)先日、「進歩連合(União Progressista)」を結成したユニオン・ブラジルと
PP(進歩党)は2日、「進歩連合は、連立与党を離脱する。これに従わない党員は除
名処分にする」と発表した。そのため、サビノ観光相(ユニオン・ブラジル)とフフ
カ・スポーツ相(PP)の去就が注目されている。「進歩連合」は、ボルソナーロ前大
統領と三権襲撃犯の恩赦法案を支持しており、次期大統領選に関しては、フレイタス
・サンパウロ州知事(Republicanos)を支持している。(3日付フォーリャ・デ・サ
ンパウロ)
(2)ルーラ大統領は3日、アルコルンブレ上院議長(ユニオン・ブラジル)、サビ
ノ観光相(ユニオン・ブラジル)、ゴエス地域開発相及びシケイラ通信相(右両名は
、ユニオン・ブラジルの党員ではないが、アルコルンブレ議長の推薦により大臣に任
命された)と昼食会を行い、「進歩連合」が連立与党から離脱した件に関し、今後の
対応等について協議を行った。サビオ観光相は辞職するが、ゴエスとシケイラは、大
臣を続ける可能性が高いと見られている。(4日付コレイオ・ブラジリエンセ)
3.伯米関係
(1)ランド―米国務副長官は3日、伯の全国工業連盟(CNI)、伯米商工会議所等の
代表と会見した際、「米国は、伯との対話を望んでいるが、(伯に対する50%のト
ランプ関税は)政治的な理由によるものであるため、経済や通商問題について話し合
っても無駄である。それよりも伯の当局に米国の見解について説明する方が有益であ
る」と述べた。(4日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)米財務省は2日、伯の主要銀行(イタウー・ウニバンコ、サンタンデール、ブ
ラデスコ、ブラジル銀行及びBTG Pactual銀行)に対し、マグニツキー法に基づき、
モラエス・STF判事に適用された制裁(米国内の資産凍結、米国系クレジットカード
の使用停止等)を実行に移すために如何なる措置が採られているのか説明を求めた
。(4日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
4.連邦議会
(1)野党は、モッタ下院議長に対し、三権襲撃犯恩赦法案の採決を迫っている。フ
ラヴィオ・ボルソナーロ上院議員(PL-RJ)は、2022年以降の選挙違反及び政治
的性格の犯罪を行ったとされる者(ボルソナーロ前大統領やエドゥアルド・ボルソナ
ーロ下院議員を含む)も恩赦の対象とする方向で、恩赦法案を書き直している。与党
PTは、クーデター未遂の裁判が行われている最中に恩赦法案の採決を行うべきではな
いと反発している。一方、フレイタス・サンパウロ州知事(Republicanos)は2日、
モッタ下院議長と会談し、クーデター未遂の裁判が終了した後、恩赦法案の採決を行
うよう、求めた。(3日付コレイオ・ブラジリエンセ及びフォーリャ・デ・サンパウ
ロ)
(2)3日、上院において、フィシャ・リンパ法改正法案が賛成50、反対24で可
決され、大統領の裁可に付された。刑法犯で有罪が確定した、または当選が無効とな
ったり、議員資格を剥奪された政治家は、被選挙権が8年間に亘って停止されるが、
現行制度では、刑期又は任期の終了から起算して8年とされているところ、今回の法
改正では、当選の認証式から数えて8年ということになった。また、複数の裁判で有
罪になっても、被選挙権停止期間の合計は12年に制限されることとなった。尚、ボ
ルソナーロ前大統領のように経済的又は政治的権力の乱用により有罪となった政治家
の場合、その行為が立候補者登録または当選の取消、或いは公職者資格の剥奪に該当
するものでなければ、被選挙権が停止されることはないとの条文がロドリゲス政府連
邦議会院内総務(PT-AP)の修正案により削除されたため、ボルソナーロが今回の法
改正により恩恵を被ることはなくなった。(3日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)2日、上院において、常習的に税金を滞納している企業を罰するための法案が
賛成71、反対0により可決された。この場合の常習的に税金を滞納している企業と
は、正当な理由なく、滞納を繰り返し、1500万レアル以上(企業資産の100%
以上)の税金を滞納している企業を差し、法人資格停止、金融取引停止等の罰則が設
けられることになる。同法案は、上院で修正されたため、再び下院に戻される。(3
日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(4)PP等の中道派勢力(セントラン)は、中央銀行の総裁及び理事を罷免する権限を
連邦議会に付与するとの法案の成立を強く求めており、近日中に同法案の採決が行わ
れる公算が大きい。アダッジ財務相は、「中銀幹部の罷免権を議会に与えることは好
ましくない」と批判している。(3日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(5)2日、上院において、プレカトリオ(連邦及び地方政府が裁判所の支払い命令
に応じて発行する債券)の償還に関する憲法改正案が可決され、成立した。これによ
り、政府は、プレカトリオの償還を先送りできるようになった。連邦政府の場合、明
年度におけるプレカトリオの支払いに充てる予算の内、124億レアルを節約できる
ことになる。選挙の年に124億レアルもの予算を自由に使えることになったルーラ
政権の勝利と位置付けられている。(3日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
5.司法
司法高等裁判所(STJ)は3日、バルボーザ・トカンチンス州知事
(Republicanos)の職務停止を決定した。同知事は、2020年から2021年にか
けて、新型コロナウイルス対策予算の横領事件に関与し、少なくとも55万レアルの
賄賂を受け取ったとされている。(4日付コレイオ・ブラジリエンセ)
6.外交
ルーラ大統領は、多国間通商システムについて協議するため、BRICS首脳のオンラ
イン会議を招集した。トランプ関税に対する伯の立場を強化するのが狙いと見られる
。(3日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)下院では、ボルソナーロ派と中道派勢力(セントラン)がボルソナーロ前大統
領と三権襲撃犯を対象とする恩赦法案の採決を求めているが、上院では、アルコル
ンブレ上院議長が恩赦ではなく、減刑を認めるとの代替案を提案する方向で調整中
。これは、クーデター未遂の首謀者ではない場合は、刑を半減し、首謀者である場
合は、それよりも少ない範囲で減刑するというものであるが、ボルソナーロ派は不
十分であると反対している。尚、カヴァルカンテ・PL下院院内総務は、選挙戦にお
けるフェイクニュースの拡散に関する捜査が開始された2019年3月14日に遡
って、民主主義に対する犯罪(クーデター、公職選挙法違反等も含む)、国有財産
の損壊、犯罪教唆、犯罪組織結社罪等の犯罪に関して誰でも幅広く恩赦を認めると
の法案を提出する方向で調整中。仮にこれが成立すれば、ボルソナーロ前大統領は
、被選挙権を回復し、明年の選挙に出馬できることになる。尚、ルーラ大統領、ア
ルコルンブレ上院議長及び連邦最高裁判所(STF)は、この幅広い恩赦法の成立を
阻止する方向で一致している。(5日付コレイオ・ブラジリエンセ、フォーリャ・
デ・サンパウロ及びオ・エスタード・デ・サンパウロ)
(2)エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-SP)は4日、伯の企業団体(CNI等
)の代表と共に米政府関係者と面会した後、「(ボルソナーロ前大統領の)恩赦法が
成立すれば、トランプ政権が伯との交渉のテーブルに着き、関税を引き下げるか、も
しかすれば、ゼロにしてくれることもあり得る」と述べた。また、エドゥアルドは、
記者団からフレイタス・サンパウロ州知事の大統領選出馬について問われた際、「今
は選挙について議論する時ではない。自分とフレイタスは、意見が異なることよりも
、一致することの方が多い。今は、恩赦に賛成する者は皆、 仲間である」と述べ、フ
レイタスに対する批判は封印した。(5日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)連邦最高裁判所(STF)第1小法廷のザニン裁判長は5日、モラエス判事の求
めに応じて、11日(木)もクーデター未遂の裁判を行うことを決定した。当初の日
程では、9日(火)の午前と午後、10日(水)の午前、12日(金)の午前と午後
に行われる予定であったが、これにより、11日(木)の午前と午後も裁判が行われ
ることになった。(6日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(4)7日の独立記念日にボルソナーロ派と左派が全国各地でデモを実施した。ボル
ソナーロ派は、首都ブラジリア及び26全ての州都においてデモを行い、ボルソナー
ロ前大統領と三権襲撃犯の恩赦を要求した。サンパウロのデモには、フレイタス・サ
ンパウロ州知事(Republicanos)、ミシェーレ前大統領夫人、ヴァルデマール・コスタ
・ネット・PL党首、福音派のマラファイア牧師等が参加した。フレイタス知事は、ク
ーデター未遂の関係者及び三権襲撃犯に対して「大幅且つ無制限」に恩赦を与え、ボ
ルソナーロ前大統領を次期大統領選に出馬させることを主張し、喝采を浴びた。また
、同知事は、「連邦最高裁判所(STF)は、ありもしない犯罪について裁判を行って
いる。我々は司法府の独裁を認めない。モラエス・STF判事は独裁者であり、同判事
の独裁には最早誰も耐えられない」と述べ、STFとモラエス判事を批判した。デモの
参加者は、巨大な米国国旗を広げ、「AMNESTY NOW」等と英語で書かれたプラカー
ドを掲げた。ドローンとAIを使った調査によると、ボルソナーロ派のデモの参加者は
4.22万人で、同日にサンパウロ市内で実施された左派のデモ(8.8千人)より
多かった。左派のデモに関しては、囚人服を着たボルソナーロと「エプスタイン・リ
スト」を持ったトランプ米大統領の大きな人形が注目を集めた。左派のデモ隊は、「
恩赦反対」を掲げ、ボルソナーロ、フレイタス及びトランプを非難した。ブラジリア
では、ボルソナーロ派のデモに参加した約1.5万人が「カムバック、ボルソナーロ
」と叫び、モラエス判事の弾劾を要求した。一方、左派のデモは、「恩赦とトランプ
関税反対」を訴えた。(8日付フォーリャ・デ・サンパウロ及びコレイオ・ブラジリ
エンセ)
(5)バホーゾ・STF長官は8日、フレイタス・サンパウロ州知事が「モラエス判事
は独裁者」等と批判した件に関し、「(クーデター未遂の)裁判は証拠に基づいて行
われており、政治やイデオロギー上の争いが入り込む余地はない。(過去の軍事政権
のような)独裁では、適正手続や裁判の透明性等は保障されなかったため、全ては闇
の中であったが、現在の裁判は、全て日の光の下で行われている」と反論した。(9
日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(6)9日、STF第1小法廷において、クーデター未遂の裁判が再開され、判事5名
による評決が始まった。先ず、報告官のモラエス判事がマウロ・シディ元大統領付副
官の供述の有効性等、手続に関する弁護側の主張を全て退けた後、「ボルソナーロ前
大統領を首謀者とする犯罪組織がクーデターにより、強権的な支配体制を敷こうとし
たことは明らかである。被告8名が起訴状に記載された全ての犯行を行ったことが証
明された」と主張した。また、同判事は、弁護側の「クーデター罪は、民主的法治国
家転覆罪に含めるべきである」との主張も退けた。続いて、ディーノ判事の評決が行
われるが、残り4名の判事の内、2名がモラエスに賛成すれば、ボルソナーロが有罪
になる。(9日付ヴァロール・エコノミコ電子版及びUol)
2.ルーラ政権
(1)連邦政府は4日、一人当たりの所得が最低賃金の半分以下で、CadÚnico(ボル
サ・ファミリア等を受給するためにはCadÚnicoへの登録が必要)に登録された低所得
層に家庭用ガスボンベ(13kg)の引換券を無料配布するとの「民衆のガス(Gás do
Povo)プログラム」を発表した。2026年度の予算は、510億レアル。これまで
実施されてきた家庭用ガス購入支援プログラム「Auxílio Gás」との違いは、現金では
なく、引換券を配布することと、対象が約500万世帯から1550万世帯に増える
ことにある。(5日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ルーラ大統領は6日夜、翌7日の独立記念日に関するテレビ・ラジオ演説を行
った際、「我々は、伯の主権については一歩も譲らない。主権を守ることは、伯を守
ることと同じである。伯の富、制度及び民主主義を死守する」と述べた。ルーラは
、SNSの規制、オンライン決算システム「Pix」、並びに連邦最高裁判所(STF)を擁
護し、「我々は誰の命令であっても受け入れない。我々は、誰かの植民地になること
はない」とトランプ政権を意識した発言を行った。更にルーラは、「伯の政治家の中
には、外国政府をけしかけて、伯を攻撃させている者がいる。これは祖国の裏切り者
であり、歴史によって断罪されるであろう」と暗にエドゥアルド・ボルソナーロ下院
議員を批判した。(7日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)7日、ブラジリアの官庁街において実施された、独立記念日の軍事パレードに
は約8万人が集まった。本年のパレードは、「主権あるブラジル」と「ブラジル人の
ブラジル、COP30と未来のブラジル」をテーマに、伯国旗のカラーである緑、黄色
、青をふんだんに使った装飾が目立った。ルーラ大統領は、オープンカーに乗って閲
兵し、支持者は「ルーラ、ブラジル国民の戦士」を連呼した。モッタ下院議長は出席
したが、アルコルンブレ上院議長は欠席した。クーデター未遂の裁判に配慮してか
、STFの判事は誰も出席しなかった。(8日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(4)ホフマン政治調整庁長官は8日、関係閣僚とモッタ下院議長に対し、恩赦法案
の成立は阻止しつつ、政府の優先事項(所得税の非課税枠引き上げ、治安対策に関す
る憲法改正、電気料金の引き下げ、並びに家庭用ガス無料配布プログラム)に関する
重要法案の早期成立を求めた。(9日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(5)CNT/MDA社が今月3日から6日にかけて2002人を対象に実施した世論調査
によると、ルーラ大統領の支持率は、44%(本年6月比3ポイント増)で、不支持
率は49.3%(3.7ポイント減)であった。ルーラに対する評価は、「ポジティ
ブ」が31%(2ポイント増)、「ネガティブ」が40%(±0)。大統領選の第1回
投票に関しては、ルーラ(PT)36.2%、ボルソナーロ前大統領
(PL)29.7%、シロ・ゴメス元国家統合相(PDT)9.6%。フレイタス・サン
パウロ州知事がボルソナーロの代わりに出馬する場合は、ルーラ35.8%に対し、
フレイタイスは17.1%。決選投票に関しては、何れの場合もルーラが勝つとの結
果が出ている。ルーラ45.7%対ボルソナーロ37.7%、ルーラ43.9%対フ
レイタス37.6%、ルーラ39.4%対シロ・ゴメス36%、ルーラ45%対ゼマ
・ミナスジェライス州知事(Novo)30.7%、ルーラ43.4%対ラチーニョ・Jr・パ
ラナ州知事(PSD)36.7%、ルーラ44.8%対カイアド・ゴイアス州知事(ユニオ
ン・ブラジル)30.4%。拒否率は、ボルソナーロ58%、ルーラ50%、フレイ
タス47%の順。(9日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
3.伯米関係
(1)開発・産業・通商・サービス省(Mdic)が4日に発表したデータによると、伯
に対して50%のトランプ関税が発動されてから1カ月が経過し、その間、伯の対米
輸出は、昨年同期比で金額にして18.5%、数量で8.5%減少したが、8月の伯
の貿易収支は、61億米ドルの黒字で、前年同期比で35.8%も増えた。英国
(+11%)、メキシコ(+43.82%)、アルゼンチン(+40.37%)、中
国(+31%)及びインド(+58%)に対する輸出の増加が対米輸出の減少を補っ
た形となった。(5日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)トランプ米大統領は先週、記者から「国連総会に出席する伯代表団に対して入
国査証を出さない等の制裁を考えているか」と問われた際、「我々は、伯の人達とは
非常に良い関係にあるが、伯政府は過激に変わった。伯政府は極度に左傾化し、伯を
非常に傷つけている。彼らは、本当にうまく行っていない。どうするか、見てみよう
ではないか」と述べた。米国務省のダレン・ビーティー公共外交担当次官代理は8日
、「昨日は伯の独立記念日であった。我々は、自由と正義を守ろうとしている伯国民
を支持している。権力の乱用により、その自由を侵害しているモラエス判事とその一
味については、今後も適切な措置を取り続ける」とXに投稿した。(9日付フォーリ
ャ・デ・サンパウロ)
4.連邦議会
(1)年金受給者から組合費等が詐取されていた件に関する議会合同調査委員会
(CPMI)は4日、全国年金受給者・高齢者組合(Sindnapi)を調査対象とすることを
決定した。ルーラ大統領の兄(フレイ・シコ)は、同組合の副委員長を務めており
、CPMIに参考人として招致される可能性が出てきた。尚、モッタ連邦総監督庁
(CGU)社会保障監査局長は4日、CPMIにおいて、「CGUは2024年7月に国家
社会保障院(INSS)と会議を行った際、組合費等の詐取が続いていることを指摘し、
対策について提案したが、当時のステファヌット・INSS総裁は、検討すると述べただ
けで、何の対策も講じなかった」と証言した。8日、CPMIにおいて、ルピ前社会保障
相(PDT)の参考人招致が行われた。ルピは、「組合費等の天引きについて年金受給
者からクレームが寄せられていたことは承知していたが、不正の全貌については警察
の捜査を待つしかなかった。不正を防げなかった責任はINSSにある」と主張した。与
党側は、「不正を始めたのはボルソナーロ政権であり、終わらせたのはルーラ政権で
ある」と主張。(5日及び9日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)3日、下院において、年金から組合費や会費を天引きすることを禁止するとの
法案が可決され、上院に上程された。(5日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)4日、下院において、国家教育システム(SNE)法案が可決され、上院に上程
された。主な点は、学生のプレスクールから大学までの成績等に関する情報を一元化
し、学校や担任の教師が変わっても生徒の情報が即座に閲覧できるようになることで
ある。また、これらのデータを分析して、国及び地方の教育政策に生かすための国家
教育情報インフラストラクチャー(INDE)の創設も含まれる。(5日付コレイオ・ブ
ラジリエンセ)
5.2026年選挙
(1)ヴァルデマール・コスタ・ネット・PL党首は、コレイオ・ブラジリエンセ紙と
のインタビューに応じた際、「我々の次期大統領候補はボルソナーロ前大統領である
。(フレイタス・サンパウロ州知事がボルソナーロ派の大統領候補として出馬する)
プランBは存在しない。300名以上(の下院議員)が恩赦法案を支持しており、同
法案が成立すれば、ボルソナーロは出馬できるようになる。中道派と右派が力を合わ
せることにより、我々は大統領選に勝つ」と述べた。 (6日付コレイオ・ブラジリ
エンセ)
(2)シロ・ノゲイラ上院議員(PP党首)は、フォーリャ・デ・サンパウロ紙とのイ
ンタビューにおいて、「ボルソナーロ前大統領は、明年1月頃に後継者を指名するで
あろう。ボルソナーロがフレイタス・サンパウロ州知事を指名すれば、同知事が最も
有力な大統領候補となる。(フレイタスの出馬には反対している)ボルソナーロの息
子達も父親の決定には従うであろう」と述べた。尚、フレイタス知事の周囲では、フ
レイタスの副大統領候補として、マリーニョ元地域開発相(PL)やテレザ・クリスチ
ーナ元農相(PP)やシロ・ノゲイラ元文官長(PP)等、ボルソナーロ政権の元閣僚
の他、ミシェーレ前大統領夫人(PL)、ゼマ・ミナスジェライス州知事(Novo)等の
名前が挙がっている。(6日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)イバネイス連邦直轄区(DF)知事(MDB)は8日、「フレイタス・サンパウロ
州知事(Republicanos)の次期大統領選出馬を支持する。同知事は、優れた実務家で
あり、また、(ボルソナーロ派とルーラ派に)分断された伯をまとめ、政情を安定化
させることができる唯一の政治家である」と述べた。(9日付コレイオ・ブラジリエ
ンセ)
6.外交
8日、ルーラ大統領の呼びかけにより、BRICSオンライン首脳会議が開かれた。ル
ーラは、トランプ米大統領を名指しすることなく、関税による恫喝を批判し、また
、WTOは機能不全に陥っているとして、BRICSが多国間貿易システムを再構築するこ
とを主張した。また、ルーラは、BRICS諸国が国連総会、COP30及びWTO閣僚会合に
向けて足並みを揃えるよう、呼びかけた。中国の習近平主席は、BRCIS諸国が多国間
主義と貿易システムを擁護することを主張した。(9日付コレイオ・ブラジリエンセ
)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)9日、クーデター未遂の裁判が再開された。報告官のモラエス判事は、マウロ
・シディ元大統領付副官による供述の無効性等に関する弁護側の主張を退けた後、「
ボルソナーロ前大統領を首謀者とする犯罪組織がクーデターにより、民主的法治国家
の転覆を試みたのは明らかである。被告達は、それ以前にも司法機関を攻撃し、伯の
選挙制度を貶める等して、民主主義に対する攻撃を繰り返していた。また、ルーラ次
期大統領(当時)等の暗殺も企てていた。2023年1月8日の三権襲撃は、クーデ
ター未遂であった。選挙に負けたことを認めないボルソナーロを中心とする政治勢力
により、もう少しのところで、伯に独裁政権が復活するところであった」と述べ、全
ての罪状(民主的法治国家転覆罪、クーデター未遂、器物損壊、文化遺産損壊、犯罪
組織結社罪)に関してボルソナーロを含む被告8名の有罪を主張した。続いて、ディ
ーノ判事の評決が行われた。同判事は、モラエス判事を支持し、被告8名の有罪を主
張したが、エレーノ元大統領府安全保障局長官、ノゲイラ元国防相及びラマージェン
下院議員(PL-RJ)については、他の5名より罪が軽いとして、減刑を認めることを
主張した。また、ディーノ判事は、「民主的法治国家は、憲法改正による変更すら認
められていない基本原則であるため、民主的法治国家転覆罪は、恩赦の対象になり得
ない」と述べ、恩赦法の成立を求めているボルソナーロ派を牽制した。(10日付コ
レイオ・ブラジリエンセ)
(2)10日、13時間以上に亘って評決を行ったフックス判事は、ボルソナーロ前
大統領については、全ての罪状に関して無罪を主張した。他の被告についても、ブラ
ガ・ネット元文官長とマウロ・シディ元大統領付副官を民主的法治国家転覆罪の容疑
で有罪にすることを主張した他は、証拠不十分等を理由に無罪を主張した。同判事は
、弁護側の主張をほぼ全面的に受け入れ、モラエス判事の主張には悉く反対意見を述
べた。その主な主張は以下の通り:①STFには本件に関する裁判管轄権はないため、
裁判は無効とすべきである。②三権襲撃は単なる暴動であり、クーデター未遂ではな
い。三権襲撃がボルソナーロの言動により引き起こされたとの証拠はない。③弁護側
には証拠に関する膨大なデータ(70テトラバイト)を熟読するための時間が与えら
れなかったため、抗弁の権利が侵害された。④ボルソナーロがルーラ等の暗殺計画に
ついて事前に承知していたとの証拠はない。これにより、ボルソナーロに関する評決
は、有罪2、無罪1となった。(11日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)ボルソナーロ前大統領の弁護団は、フックス判事の評決が予想以上に弁護側に
有利で、裁判の無効にまで踏み込んだことを評価し、「歴史的な評決である」と絶賛
した。ボルソナーロ派の議員や支持者は、狂喜乱舞し、フックス判事を称賛した。与
党側からは、フックス判事に対する批判や「裁判はまだ終わっていない。ボルソナー
ロに不利な状況は変わっていない」といった声が聞かれた。(11日付コレイオ・ブ
ラジリエンセ)
(4)モラエス判事は10日、ボルソナーロ前大統領に対し、今月14日(日)にブ
ラジリア市内の病院で治療(炎症を起こした皮膚の除去)を受けることを許可した。
ボルソナーロは、入院することなく、その日の内に帰宅する予定。(11日付フォー
リャ・デ・サンパウロ)
(5)連邦警察は10日、ディーノ判事が9日に評決を行ってからSNS上で脅迫を受
けている件に関して捜査を開始した。脅迫の中には、ネパールの動乱のような騒ぎを
伯でも起こしてディーノを始めとするSTF判事に危害を加えるといったものもある。
ブラジリアの官庁街では、9日に仮設トイレの放火が発生したり、10日未明には大
統領府に侵入しようとした男が現行犯逮捕される等、不穏な動きが見られている
。(11日付ヴァロール・エコノミコ電子版)
(6)11日午後2時、カルメン・ルシア判事の評決が開始された。同判事は先ず
、「本件に関する裁判管轄権は、STF第1小法廷にある。これについては、既にSTF
の判断が下されている。よって、裁判管轄権の違いを理由に裁判を無効にすべきでは
ない」、「ボルソナーロ前大統領を首謀者とするグループが組織的に選挙制度と司法
機関を攻撃することで、政権交代を阻止しようとしたことに関しては確固たる証拠が
ある」、「三権襲撃は、日常茶飯事ではなく、国家に対する重大な犯罪であり、刑法
に則って処罰する必要がある」等と述べ、フックス判事の主張に対して一つずつ反論
を行った。モラエス判事とディーノ判事も評決の途中で発言を求め、フックス判事の
主張に反論した。カルメン・ルシア判事が全ての罪状について被告8名の有罪を主張
したことで、STF第1小法廷の過半数がボルソナーロの有罪を支持していることが確
定した。(11日付ヴァロール・エコノミコ電子版及びUol)
2.伯米関係
ホワイトハウスのレビット報道官は9日、記者会見において、ボルソナーロ前大統
領の裁判に関して問われた際、「表現の自由の保護は、トランプ政権の最優先事項で
あり、トランプ大統領は、世界中において表現の自由を守るために米国の経済力と軍
事力を行使することを厭わない」と述べ、米国が伯に対して軍事力を行使するかのよ
うな発言を行った。これに対し、伯外務省は、「表現の自由を守るための第一歩は、
選挙で示された民意と民主体制を尊重することである。伯に圧力をかけるために外国
政府を利用している反民主的勢力を非難する」と表明した。ホフマン大統領府政治調
整庁長官は、「ボルソナーロ一家による陰謀は、米国政府の報道官が伯に対する軍事
力の行使について言及するまでに至った。我国の輸出に対する関税措置、STF判事に
対する制裁に飽き足らず、今度はボルソナーロを刑務所から救い出すために伯に侵攻
すると脅している」と批判した。ルーラ大統領は10日、ロライマ州の送電システム
の完成式に出席した際、「我々は主権国家である。伯は誰に対しても負い目など追っ
ていない」と述べた。(10日付コレイオ・ブラジリエンセ及び11日付フォーリャ
・デ・サンパウロ)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)11日、連邦最高裁判所(STF)第1小法廷において、ボルソナーロ前大統領
が暴力による民主的法治国家転覆罪、クーデター未遂、暴力による国有財産の損壊、
文化遺産の損壊、並びに武装犯罪組織結社罪の罪により、禁固27年3ヶ月の実刑判
決が言い渡された。他の被告7名にも有罪判決を言い渡され、ブラガ・ネット元文官
長は禁固26年、エレーノ元大統領府安全保障局長官は禁固21年、トーヘス元法務
治安相は禁固24年、ノゲイラ元国防相は禁固19年、ガルニエール元海軍司令官は
禁固24年、アレンシャンドレ・ラマージェン下院議員(PL-RJ)は禁固16年1ヶ
月15日、マウロ・シディ元大統領付副官は禁固2年に処された。弁護側は控訴する
構え。弁護団は、米州人権裁判所等、国外の裁判所にも提訴することを検討している
が、仮に有利な決定を得られたとしても、STFの判決を覆すことはできないと見られ
ている。ボルソナーロの有罪は、海外のメディアからも大きく取り上げられた。ニュ
ーヨークタイムズは、「伯の最高裁は、民主主義を攻撃した元大統領を裁くという、
米国の上院と連邦裁判所が失敗したことをやってのけた」と称賛。(12日~14日
付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)ボルソナーロ前大統領の弁護団は、禁固27年3ヶ月の有罪判決に対して異議
申し立てを行うとしているが、連邦最高裁判所(STF)第1小法廷における評決の結果
が有罪4、無罪1であったことから、可能な異議申し立ては「判決不明瞭点解明願い
(embargos de declaração)」に限定されることになる。「判決不明瞭点解明願い」
とは、判決文の不明瞭な部分、または矛盾点に関して説明を求めるものであるが、こ
れによって判決が覆ることはまずないとされている。「判決不明瞭点解明願い」が出
された場合、STF大法廷ではなく、再び、STF第1小法廷で手続が行われることにな
る。「判決不明瞭点解明願い」の提出期限は、判決の官報掲載から5日以内である。
判決の言い渡しから官報に掲載されるまでの時間は平均して35日とされている(規
定では最大60日)。評決の結果が3対2であれば、「判決不明瞭点解明願い」の他
にも「embargos infringentes」と称する異議申し立てを行うことができる。ボルソナ
ーロの場合、5つの罪の内、少なくとも一つについて無罪を主張する判事が二人いれ
ば、この異議申し立てが可能であるが、実際は、無罪を主張したのはフックス判事だ
けであり、残り4名の判事は全ての罪状について有罪を主張したので、「embargos
infringentes」が認められることはないとされている。今後の裁判手続は、①判決の官
報掲載(平均35日)、②異議申し立て(12月までに審理が行われ、12月中には
判決が確定する見込み)、③刑の執行(12月中)の順で行われる。判決確定後、モ
ラエス判事がボルソナーロの収監先(連邦警察ブラジリア支局内の特別房、ブラジリ
ア・パプダ刑務所、または自宅軟禁(健康状態次第))について決めた後、刑の執行
が開始される。(12日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)ボルソナーロ前大統領が禁固27年3ヶ月の有罪判決を言い渡されたことによ
り、ボルソナーロが刑務所に収監されるのを阻止するためには、恩赦法の成立が主な
手立てとなっている。フラヴィオ・ボルソナーロ上院議員(PL-RJ。ボルソナーロ前大
統領の長男)は11日、STFを非難すると共に、「我々は、議会内の勢力を結集して
ボルソナーロを含む(クーデター未遂の関係者及び三権襲撃犯)全員に対する広範囲
で、全体的且つ無制限の恩赦法を成立させる。この恩赦は、刑法、行政法及び選挙法
に関する幅広い恩赦となる」と述べた。カヴァルカンテ・PL下院院内総務は、「恩赦
法案については、先ず、来週火曜(16日)の各党院内総務の会議で取り上げられる
ことになっている。モッタ下院議長が恩赦法案を議題に取り上げることを期待してい
る」と述べた。ホフマン大統領府政治調整庁長官(PT)は11日、「恩赦法の成立を
阻止することは、政府の最優先事項である」と述べた。中道派勢力(セントラン)の
ユニオン・ブラジルと進歩党(PP)は先日、両党が政党連合を結成し、連立与党から
離脱して恩赦法案を支持すると発表したが、ホフマン長官は、PTを中心とする左派勢
力、並びに中道派勢力のブラジル民主運動(MDB)及び社会民主党(PSD)の力を合
わせれば、恩赦法の成立を阻止できると見ている。カサビ・PSD党首は12日
、「PSDとしては恩赦法案を支持するが、党議拘束はかけないので、PSDの所属議員
は、自由に判断して投票できる」と述べた。(12日及び14日付フォーリャ・デ・
サンパウロ及びヴァロール・エコノミコ電子版)
(4)トランプ米大統領は11日、ボルソナーロ前大統領に禁固27年の実刑判決が
言い渡された件に関し、「私は裁判を見た。私は彼(ボルソナーロ)のことをよく知
っている。彼は良い大統領であった。今回の出来事は非常に驚くべきことである。私
に対してやろうとしていたことと非常によく似ている。私は(有罪について)非常に
不満を感じている。(ボルソナーロの裁判は)非常にひどいものであり、伯にとって
非常に悪いことである」と述べた。ルビオ国務長官は、「米国政府は、ボルソナーロ
前大統領に対する魔女狩りに対し、適切な形で対応するであろう」と表明した。米国
務省のダレン・ビーティ公共外交担当次官代理は12日、「我々は、裁判の結果を極
めて深刻に受け止めている。今回の決定は、人権の侵害者であるモラエス判事による
、ボルソナーロとその支持者に対する一連の迫害と検閲の一環である。我々は、この
闇深い展開に対して最大級の真剣さをもって対応する」とXに投稿した。在伯米大使
館は12日、ランドー米国務副長官の「モラエス判事は法の支配を破壊しており、米
伯の外交関係をこの200年間で最も悪化させている」との投稿を大使館の公式アカ
ウントに投稿した。ルビオ国務長官は15日、フォックスニュースのインタビューに
応じた際、「(伯における)法の支配は悪化している。活動家の裁判官の内の一人が
ボルソナーロを迫害し、米国市民や米国からインターネットにアクセスしている市民
に対する国内法の国外適用を求め、これらのことについて更にエスカレートしようと
している。よって、米国は、それに対応する。来週にも我々が講じようとしている追
加的措置が発表されるであろう。(ボルソナーロの)裁判は、米国企業、並びに米国
において活動している人々を標的とした司法による弾圧キャンペーンの一部に過ぎな
い」と述べた。米国の伯に対する追加的な制裁としては、モラエス判事以外で有罪を
主張した判事の査証取り消しや伯に対する関税の引き上げ等が予想されている
。(12日~16日付フォーリャ・デ・サンパウロ及びヴァロール・エコノミコ電子
版)
(5)ボルソナーロ前大統領は14日、モラエス判事の許可を得て、ブラジリア市内
の病院で診察を受けた。検査の結果、貧血と肺炎が完治していないことが判明した。
また、傷ついた皮膚の一部が採取され、検査に回された。ボルソナーロに近い人達は
、「ボルソナーロは、パプダ刑務所に収監され、適切な治療を受けられなかったり、
他の受刑者から虐めを受けることを恐れ、パニックに陥っている」として、自宅軟禁
の継続を主張している。診察の終了後、ボルソナーロは、複数の警察車両とともに自
宅に戻った。病院の前には20人ほどの支持者が集まり、伯国歌を歌ったり、祈りを
捧げたりしていた。(15日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(6)ダタフォーリャ社の世論調査(9月8日~9日)によると、連邦議会がボルソ
ナーロ前大統領に対して恩赦を認めることに対して54%が反対しているのに対し、
賛成は39%であった。ボルソナーロの収監については、賛成50%に対し、反対は
43%。三権襲撃の責任者に恩赦を認めることについては61%が反対で、賛成は
33%にとどまった。(14日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(7)ルーラ大統領は、14日付ニューヨークタイムズ紙に掲載された寄稿文の中で
、「我々は、(米国との間で)互恵をもたらす全てのことについて交渉する用意があ
るが、伯の民主主義と主権は、取引材料にはならない。米国政府は、2023年1月
8日のクーデター未遂を主導した元大統領の不可罰性を追求するため、関税とマグニ
ツキー法を用いている。私は、11日に歴史的な決定を行った連邦最高裁判所(STF)
のことを誇りに思っている」と述べた。トランプ政権が「伯は検閲を行い、表現の自
由を制限するためにSNS企業を規制しようとしている」と批判している件に関しては
「そのような主張は不誠実である。伯は、一般家庭を不正や偽情報やヘイトスピーチ
から守ろうとしているだけである」と反論した。ルーラは、伯のオンライン決済シス
テム「Pix」に対する米国の批判に関しても「根拠のない主張である」として、「Pix」
を擁護した。(15日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(8)ヴァルデマール・コスタ・ネット・PL党首は13日、「実際、(ボルソナーロ
政権の末期には)クーデターが計画されていたが、それは実現しなかった。計画だけ
なら、犯罪を犯したことにはならない。問題は、2023年1月8日の出来事(三権
襲撃)であり、最高裁があれをクーデターと言い張り続けていることにある。棒を持
った暴徒の一団が物を壊して歩いたからと言って、それをクーデターと呼ぶのは馬鹿
げている」と述べたが、ボルソナーロの弁護団は、クーデター計画の存在を否定して
おり、ボルソナーロ派は一斉に同党首を批判した。そのため、同党首は15日、発言
を撤回した。(16日付コレイオ・ブラジリエンセ)
2.ルーラ政権
(1)ダタフォーリャ社が今月8日から9日にかけて2005人を対象に実施した世
論調査によると、ルーラ大統領の支持率は、48%(7月末比2ポイント増)で、不
支持率(48%(2ポイント減))と並んだ。ルーラ政権に対する評価は、「悪い/非
常に悪い」38%(2ポイント減)、「非常に良い/良い」33%(4ポイント増
)、「普通」28%(1ポイント減)、「分からない」2%(1ポイント減)であっ
た。(12日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ルーラ大統領は15日、モッタ下院議長と会談し、ボルソナーロ前大統領の恩
赦に関する法案は議題に取り上げず、所得税の非課税枠引上げ等、政府が優先事項に
掲げている重要法案の審議を優先的に行うよう、求めた。尚、ズッコ・野党下院院内
総務(PL-RS)は、「モッタ議長は、野党の求めに応じて、恩赦法案の緊急審議動議
の採決を今週中に行うことにしている」と述べた。(16日付コレイオ・ブラジリエ
ンセ)
(3)本年の国連総会まであと1週間となったが、パジーリャ保健相、レヴァンドフ
スキ法務治安相等、ルーラ大統領と共に渡米する予定の伯代表団の一部に対して米国
の入国査証が発給されない状態が続いている。伯政府は、米国が査証の発給に応じな
ければ、1947年に国連と米国が締結した条約に違反するため、最終的には発給に
応じると見ているが、最近の例では、米国がパレスチナ自治政府の代表に対する査証
を拒否した件もあり、米国がボルソナーロの有罪を理由に査証を拒否する可能性もあ
ると見られている。(16日付コレイオ・ブラジリエンセ)
3.連邦議会
(1)11日、年金から組合費等が詐取されていた問題に関する議会合同調査委員会
(CPMI)では、オリヴェイラ元労働・社会保障相(ボルソナーロ政権)の参考人招致
が行われた。オリヴェイラは、「組合費等の詐取については、本年4月に連邦警察が
強制捜査を行うまで知らなかった」と述べたが、ファビアーノ・コンタラット上院議
員(PT-ES)が入手した文書によると、オリヴェイラは、2018年に国家社会保障
院(INSS)サンパウロ支局長を務めていた際に連邦検察官から詐取について問い合わ
せを受けていたことが判明した。オリヴェイラはその後、2021年にINSS総裁、翌
2022年には労働・社会保障大臣に就任したが、詐取については何の対策も講じな
かった模様。(12日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)ディーノ・STF判事は15日、最も高額の「議員個人の議員割当金(emenda
Pix)」を受け取った10都市の内、リオデジャネイロ、マカパー等、9都市に対する
「議員個人の議員割当金」(6.71億レアル)の拠出を差し止めた。連邦総監督庁
(CGU)の報告書によると、これらの9都市は、2020年から2024年にかけて
、合計175億レアルの「議員個人の議員割当金」を受け取ったが、これらの都市で
は、贈収賄、公金横領等の不正が横行していた。ディーノ判事は、連邦警察に対し、
これら9都市に関する捜査を命じた。(16日付コレイオ・ブラジリエンセ)
外交
ルーラ大統領は、今月23日、国連総会に出席し、一般討論演説を行う予定。ルー
ラの次に演説を行うトランプ米大統領を意識して、パレスチナ問題、民主主義、多国
間主義、気候変動等のテーマについて取り上げると見られている。ルーラは、23日
にグテレス国連事務総長と会談する他、ボリッチ・チリ大統領及びサンチェス・スペ
イン首相と民主主義及び法の支配に関するイベントの共同議長を務める予定。また、
ルーラは、グテレス事務総長と共に、気候変動に関するオンライン・サミットの共同
議長を務める。(16日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)ボルソナーロ前大統領は16日、しゃっくり、呼吸困難、嘔吐等の症状を訴え
、ブラジリア市内の病院に搬送された。フラヴィオ・ボルソナーロ上院議員(PL-
RJ)によると、クーデター未遂の裁判で有罪となり、禁固27年3ヶ月の刑を言い渡
されたことによるストレスが原因である。ボルソナーロは17日、水分補給及び投薬
により症状が改善したことから、退院した。但し、14日に採取された皮膚組織の検
査の結果、初期の皮膚ガンであることが判明。専門家によると、それほど深刻ではな
いが、注意が必要である。弁護団は、皮膚ガンを理由に禁固刑を自宅軟禁に切り替え
ることを求める可能性がある。(17日及び18日付コレイオ・ブラジリエンセ及び
ヴァロール・エコノミコ電子版)
(2)第4管区連邦地方裁判所(TRF-4)は16日、ボルソナーロの大統領在任中の発
言(黒人の支持者を指さして、「お前の頭はゴキブリの巣みたいだな。ひと月に何回
風呂に入っている? シラミが死ぬから、イベルメクチンは飲まない方がいいぞ」等と
発言)が人種差別に当たるとし、集団への精神的苦痛に対する賠償として、100万
レアルの支払いを命じた。(17日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)モッタ下院議長は、ボルソナーロ前大統領等、クーデター未遂の首謀者と三権
襲撃犯には、恩赦ではなく、減刑を認める(例えば、民主的法治国家転覆罪の刑期を
4~8年から2~6年に減らす等)との法案を提出する方向で各党と調整中。これに
より、ボルソナーロ派の主張する「大幅且つ無制限の恩赦」を阻止するのが狙いとさ
れている。(17日及び18日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(4)Genial/Quaest社の世論調査(9月12日~14日)によると、ボルソナーロ前大
統領及び三権襲撃犯の恩赦に反対と答えたのは全体の41%で、賛成は36%であっ
た。「三権襲撃犯にのみ恩赦を認める」は10%、無回答は13%。(17日付ヴァ
ロール・エコノミコ電子版)
(5)17日、下院において、三権襲撃犯とボルソナーロ前大統領の恩赦に関する法
案の緊急審議動議が賛成311、反対163により可決された。同法案は、マルセロ
・クリヴェラ下院議員(Republicanos-RJ)が提出したもので、2022年10月以降
の抗議デモに関する全ての犯罪について恩赦を認めるというものであるが、審議の過
程で修正が加えられる可能性があり、最終的に如何なる恩赦になるのかは不透明であ
る。この動議が可決されたことで、与党が敗北し、ボルソナーロ派を中心とする野党
が勝利を収めた形となった。緊急審議動議が急転直下で可決された背景には、モッタ
下院議長が連邦議員の裁判管轄特権(foro privilegiado)と不逮捕特権の強化に関する
憲法改正案を通すこと(下記3.(1)参照)と引き換えに、恩赦法案の審議を進め
ることで、野党及び中道派勢力(セントラン)との取引に応じたことがあるとされて
いる。モッタ下院議長は18日、パウリーニョ・ダ・フォルサ下院議員(SD-SP)を
恩赦法案の報告官に指名した。同議員は、モラエス・STF判事と近い関係にあること
で知られる。(18日付コレイオ・ブラジリエンセ及びヴァロール・エコノミコ電子
版)
(6)ルーラ大統領は、BBC Newsとのインタビューにおいて、「(ボルソナーロと
三権襲撃犯の)恩赦法案が議会を通過したら、拒否権を行使する」と述べた。ルーラ
は、減刑について問われた際、「減刑を認める権限は、司法府にある」とのみ述べ、
明言は避けた。尚、ルーラは、PDT関係者との昼食会において、「既に有罪を言い渡
された三権襲撃犯の減刑に反対するつもりはない」と述べた。(17日付ヴァロール
・エコノミコ電子版及び18日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(7)ランドー米国務副長官は17日、「米国は、(伯に対して新たな対抗措置を取
ることにより)ボルソナーロ前大統領が刑務所に収監されるのを後押しすることにな
るとしても、ボルソナーロの有罪に対して対応する」とXに投稿した。バホーゾ・STF
長官は、トランプ政権の度重なる批判に関し、「伯では、検閲や政治的な理由による
迫害や魔女狩りは行われていない。ボルソナーロ前大統領の裁判は、証拠に基づき、
透明性が担保された上で行われた。クーデターだけではなく、ルーラ大統領等の暗殺
が企てられていたことも証明された。また、STFがその決定を国外で適用しようとし
たことはない」と反論した。(18日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(8)在伯米国大使館は、ランドー米国務副長官がXに投稿した「米国は、コントロ
ールを失ったモラエス判事が200年以上に亘る米伯関係を完全に破壊する前に、伯
が同判事を抑え込むのを待っている。伯は、問題の解決を図るのではなく、制裁を受
けた人権侵害者(モラエス判事)がその政治的アジェンダを追求するため、賭けを上
乗せしているのを許している。米国は、モラエスが我国に検閲を持ち込むことは許さ
ない」とのメッセージをリポストした。(18日付ヴァロール・エコノミコ電子版)
2.ルーラ政権
(1)Genial/Quaest社が今月12日から14日にかけて2004人を対象に実施した世
論調査によると、ルーラ政権の支持率は、46%(8月比±0)で、不支持率は
51%(±0)であった。ルーラ政権に対する評価は、「ポジティブ」が
31%(±0)。「ネガティブ」は38%(1ポイント減)、「普通」は28%(1ポ
イント増)であった。政府支持率は、5月から回復し始め、トランプ関税の発動直後
に急上昇したが、それでも支持率が不支持率を下回っている状況が続いている。これ
は、国民の経済に対する見方が厳しくなったのと、トランプ関税により鼓舞された愛
国心が薄れたためと見られている。(17日付ヴァロール・エコノミコ電子版)
(2)AtlasIntel社が今月10日から14日にかけて7291人を対象に実施した次期大
統領選に関する世論調査の結果は以下の通り。何れのシナリオでもルーラ大統領が勝
つとの結果が出ている。
①第1回投票:(2022年の大統領選と同じ候補が出馬すると仮定した場合)ルー
ラ(PT)48.1%、ボルソナーロ前大統領(PL)42.1%、シロ・ゴメス元国家
統合相(PDT)2.7%、テベチ企画予算相(MDB)2.7%、その他合計
1.9%。
(シナリオ1)ルーラ(PT)48.2%、フレイタス・サンパウロ州知事
(Republicanos)30.4%、シロ・ゴメス(PDT)4.3%、カイアド・ゴイアス州知
事(ユニオン・ブラジル)3.7%、ゼマ・ミナスジェライス州知事(Novo)3%、ラ
チーニョ・Jr・パラナ州知事(PSD)2.6%。
(シナリオ2)ルーラ(PT)50.2%、ミシェーレ前大統領夫人(PL)33%、ゼ
マ知事(Novo)5.8%、ラチーニョ知事(PSD)3.7%、カイアド知事(ユニオン
・ブラジル)2.3%。
(シナリオ3)アダッジ財務相(PT)37.6%、フレイタス知事
(Republicanos)31.3%、シロ・ゴメス(PDT)8.7%、カイアド知事(ユニオン
・ブラジル)3.7%、ゼマ知事(Novo)3.2%、ラチーニョ知事(PSD)2.5%。
②決選投票:ルーラ50.6%対フレイタス45.2%。ルーラ51.8%対ボルソ
ナーロ44.8%。ルーラ51.9%対ミシェーレ44.6%。ルーラ51.4%対
ゼマ36.7%。ルーラ51.7%対カイアド34%。ルーラ51.6%対ラチーニ
ョ34.9%。
尚、同社の調査では、政府支持率が8月から2.9ポイント上昇して50.8%とな
り、不支持率(48.3%。8月比2.7ポイント減)を上回った。ルーラ政権に対
する評価は、「悪い/非常に悪い」48%(3.2ポイント減)、「非常に良い/良い
」46.2%(2.5ポイント増)、「普通」は5.8%(0.7ポイント増)。
(17日付ヴァロール・エコノミコ電子版)
(3)ルーラ大統領は17日、インターネット児童保護法を裁可した。これは、未成
年者をインターネット上の性的搾取、児童ポルノ、虐め、自殺及び自傷教唆等の犯罪
から守るため、SNS企業を含むプラットフォームの責任について定めた法律である。
また、ルーラは、国家データ保護当局(ANPD)をインターネット児童保護法の執行
機関に変えるための暫定措置令に署名した。(18日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(4)ルーラ大統領は17日、伯国内のデータセンター設置に関して税制上の優遇措
置を認めるとの暫定措置令(MP)に署名した。(17日付ヴァロール・エコノミコ電
子版)
3.連邦議会
(1)16日、下院において、連邦議員の裁判管轄特権(foro privilegiado)と不逮捕
特権の強化に関する憲法改正案(PEC da Blindagem-防弾憲法改正案)が可決され(
第1回投票:賛成353、反対134。第2回投票:賛成344、反対133)、上
院に上程された。これは、連邦議員が犯罪を犯した場合、当選認証式に遡って連邦最
高裁判所(STF)に裁判管轄権があるとするものである、また、連邦議員の逮捕は、
人種差別、麻薬密売、テロリズム、拷問等、保釈の対象外である犯罪を犯し、現行犯
逮捕された場合にのみ可能で、しかも、連邦議会が24時間以内に訴追及び捜査の可
否について採決(無記名式の秘密投票)を行うことになっている。これらの特権は、
連邦議会に議席を有する政党の党首にも付与される。この憲法改正案を支持したのは
、中道派勢力(セントラン)であるが、右派と左派の一部も賛成票を投じた。尚、上
院では、同PECに対する批判が噴出しており、憲法司法委員長のオットー・アレンカ
ール上院議員(PSD-BA)は、「このPECが上院を通ることはない」と述べている
。(17日及び18日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)カロル・デ・トニ下院議員(PL-SC)は16日、下院少数派院内総務の座をエ
ドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-SP)に譲ると発表した。エドゥアルドは、本年
2月に渡米してから一度も帰国しておらず、休職期間も過ぎたため、このままでは議
員資格が剥奪されることになるが、院内総務になれば、2015年に作られた規則に
より、国外に滞在し続けても議員資格を失うことはない。尚、トニ議員は、少数派の
第1副院内総務となり、事実上の院内総務として活動する。(17日付フォーリャ・
デ・サンパウロ)
(3)17日、上院において、低所得層を対象とする電気料金値下げプログラム
「Tarifa Social」の導入に関する暫定措置令(MP)が可決され、大統領の裁可に付さ
れた。同プログラムでは、ひと月当たりの電力消費量が80kWh以下である場合には
電気料金は無料になる。(18日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(4)アルコルンブレ上院議長(ユニオン・ブラジルーAP)は17日、「サンパウロ
州から選出された下院議員(エドゥアルド・ボルソナーロ)が我国を攻撃するため、
連日のように米国をけしかけているのは看過できない。我国に対する攻撃を黙って見
過ごすわけにはいかない」と批判した。(18日付コレイオ・ブラジリエンセ)
4.外交
国連総会に出席する伯政府代表団の一部に対して米国の査証発給が遅れている件に
関し、16日、レヴァンドフスキ法務治安相(無所属)には査証が発給されたが、パ
ジーリャ保健相(PT)には発給されなかった。パジーリャは、国連総会の保健相会合
やパンアメリカン保健機構(OPAS)の会合に出席する予定であるが、このままでは
出席できないことになる。(17日付コレイオ・ブラジリエンセ)
1.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)18日、パウリーニョ・ダ・フォルサ下院議員(SD-SP)が恩赦法案の報告官
に選出された。同報告官は、ボルソナーロ派が要求している「大幅且つ無制限の恩赦
」には否定的であり、恩赦ではなく、減刑を主張することにしている。民主的法治国
家転覆罪の刑は、禁固4~8年から2~6年とし、クーデターについては禁固
4~12年を2~8年にする方向で検討中。但し、恩赦ではなく、減刑とすることに
ついては、右派だけでなく、左派も難色を示していることから、法案審議は難航する
可能性がある。パウリーニョ・ダ・フォルサ議員は19日、恩赦法案を「量刑法案
(PL da Dosimetria)」に改め、クーデター未遂関係者と三権襲撃犯には恩赦ではな
く、減刑を認めることで、伯に平和をもたらすことを主張し、テメル元大統領
(MDB)とシロ・ノゲイラ・PP党首の支持を求めた。尚、エドゥアルド・ボルソナー
ロ下院議員(PL-SP)は、「このような破廉恥な提案のために自分は全てを捨てて伯
を飛び出したのではない」と怒りを爆発させた。(19日付フォーリャ・デ・サンパ
ウロ及び20日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)ディーノ・STF判事は18日、2021年の新型コロナウイルス対策議会調査
委員会(CPI)の報告書に基づき、ボルソナーロ前大統領、その3人の息子(フラヴ
ィオ、カルロス及びエドゥアルド)及び他の20名に関して「伝染病の拡散」、「薬
機法違反」、「衛生上の予防措置違反」等の容疑で捜査を行うことを決定した。ボル
ソナーロ等は、パンデミック期間中に新型コロナウイルスに関する偽情報を拡散し、
また、マスクの着用、ソーシャルディスタンス等の感染対策には従わないよう、国民
に広く呼び掛けていた。捜査は、60日以内に完了する予定。(19日付コレイオ・
ブラジリエンセ)
(3)米国政府は22日、モラエス・STF判事のヴィヴィアネ夫人(弁護士)と同夫
人とその子供が共同経営している会社(LEX Instituto de Estudos Jurídicos)にマグニ
ツキー法を適用すると共に、メシアス連邦総弁護庁(AGU)長官、ロドリゲス連邦警
察長官、モラエス判事の補佐官等、7名に対する査証を取り消した。米国務省は、「
これは、モラエスのような邪悪な外国のプレーヤーを支援する者に対する警告である
」とのプレスリリースを発表。ベッセント財務長官は、「モラエス夫妻は、(現代の
)ボニーとクライドである。ボニーがいなければ、クライドもいなかったであろう」
と述べた。モラエス判事は、「今回の措置は違法であり、遺憾である。伯の裁判官が
脅しや妨害に屈することはない」とコメント。尚、連邦最高裁判所(STF)は、クーデ
ター未遂関係者及び三権襲撃犯の減刑について連邦議会と水面下で協議を行っていた
が、米国の新たな制裁を受けて再び態度を硬化させ、議会側との協議を白紙に戻そう
としている。(23日付コレイオ・ブラジリエンセ及びフォーリャ・デ・サンパウロ
)
(4)連邦検察庁は22日、「エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-SP)とイン
フルエンサーのパウロ・フィゲイレードは、クーデター未遂の裁判を妨害するため、
米国政府に働きかけることで、伯の司法機関、特にモラエス判事に制裁をかけさせる
等の妨害行為を行った」として、両者を司法妨害罪の容疑で起訴した。(23日付コ
レイオ・ブラジリエンセ)
2.ルーラ政権
(1)ユニオン・ブラジル執行部は18日、連立与党離脱を決定し、24時間以内に
政府の役職から辞任しなければ除名処分にすると党員に対して通告した。今回の決定
の背景には、ルエダ党首の不正(犯罪組織PCCとの関係)に関する捜査情報がメディ
アにリークされたことがある。サビノ観光相(ユニオン・ブラジル)は19日、ルー
ラ大統領に対し、同大統領が国連総会から帰国次第、大臣を辞任すると伝えた
。(19日付フォーリャ・デ・サンパウロ及び20日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)Genial/Quaest社が今月12日から14日にかけて実施した次期大統領選に関する
世論調査によると、決選投票では、何れの組み合わせでもルーラ大統領が勝つとの結
果が出ている:ルーラ(PT)43%対フレイタス・サンパウロ州知事
(Republicanos)35%。ルーラ(PT)47%対ボルソナーロ前大統領34%(PL)。
ルーラ47%(PT)対ミシェーレ前大統領夫人32%(PL)。ルーラ(PT)44%
対ゼマ・ミナスジェライス州知事(Novo)32%。ルーラ46%対カイアド・ゴイアス
州知事(ユニオン・ブラジル)31%。ルーラ(PT)44%対ラチーニョ・Jr・パラ
ナ州知事(PSD)32%。(19日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
3.連邦議会
(1)17日に下院を通過した、議員の訴追及び捜査を困難にする憲法改正案(PEC
da Blindagem)は、連邦議員だけでなく、地方議員にも適用される可能性が指摘され
ている。ルーラ大統領は18日、「PEC da Blindagemが下院を通過して、気が滅入っ
ている。国民の権利を拡大しなければいけないというのに議員だけでなく、党首にも
特権の拡大を認めるとは不真面目である」と批判した。SNS上でも本件に関して連邦
議会に対する不満が高まっている。同PECの上院における報告官に指名されたアレッ
サンドロ・ヴィエイラ上院議員(MDB-SE)は、「このPECを承認することは、連邦
議会のイメージをゴミ箱に捨てるようなものであり、到底、容認できない。自分は同
PECに否定的な意見書を提出することにしており、同PECは上院において否決される
であろう」と述べた。ヴィエイラ上院議員は22日、「PEC da Blindagemは、犯罪者
を利するものであり、違憲である。今週水曜にも同PECに否定的な意見書を提出する
」と述べた。シロ・ノゲイラ上院議員(PP党首)は、「議員の発言に関する犯罪のみ
をPECの対象とする」との代替案を提出する方向で検討中であるが、ヴィエイラ議員
は、これにも反対している。(19日及び21日付フォーリャ・デ・サンパウロ
、23日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)21日、首都ブラジリア及び26全ての州都において、左派政党(PT及び
PSol)、学生団体及び市民団体を中心とする左派勢力がボルソナーロ前大統領及び三権
襲撃犯の恩赦法案、並びに議員の裁判管轄権に関する特権を強化するための憲法改正
案(PEC da Blindagem(防弾憲法改正案))に対する抗議デモを実施した。デモの参加
者は、「恩赦無し(Sem anistia)」、「PEC da Blindagem反対」等と叫び、ボルソナ
ーロ前大統領、モッタ下院議長、トランプ米大統領を批判した。サンパウロ市パウリ
スタ大通りのデモにおいては、中央に「恩赦無し(Sem anistia)」と大書された巨大
なブラジル国旗が広げられた。航空写真を使った調査によると、サンパウロ市のデモ
の参加者は、ピーク時には4.75万人に達し、9月7日のボルソナーロ派によるデ
モの4.22万人を上回った。リオデジャネイロの参加者は、4.18万人で、ボル
ソナーロ派のデモの4.27万人には僅かに及ばなかった。政府与党は、今回のデモ
でボルソナーロ派のデモに匹敵する規模の人数を動員できたことを評価しており、恩
赦法案及びPEC da Blindagem反対について国民の理解を得られたと自信を深めている
。ルーラ大統領は、「今回のデモにより、国民が不可罰性と恩赦の両方を望んでいな
いことが明らかになった。私は国民の側にある。連邦議会は、国民に恩恵をもたらす
ための政策に集中すべきである」と述べた。一方、フラヴィオ・ボルソナーロ上院議
員(PL-RJ)等のボルソナーロ派からは、これまでのデモでは動員数で右派の後塵を拝
してきた左派が盛り返したことを過小評価するコメントが目立った。(22日付フォ
ーリャ・デ・サンパウロ)
4.外交
(1)米国は18日、パジーリャ保健相(PT)が国連総会に出席するための査証を発
給したが、ホテルと国連本部と伯の国連代表部の間しか移動できないものであったた
め、パジーリャは、渡米を断念した。(20日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ルーラ大統領は18日、カタールのタミム・ビン・ハマド・アル・サーニー首
長に電話をかけ、イスラエルのドーハ攻撃に関してお見舞いの言葉を述べた上で、こ
の攻撃がカタールによる仲介を妨げる可能性について懸念を表明した。また、ルーラ
は、飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの第1回リーダー会合が11月3
日にドーハで開催されることに対して謝意を伝えると共に、COP30への出席を要請し
た。ルーラはその後、サンチェス・スペイン首相と電話会談を行い、「ガザ地区では
国際人道法が踏みにじられている」と非難した。(20日付フォーリャ・デ・サンパ
ウロ)
(3)伯、スペイン、ウルグアイ、コロンビア及びチリは、国連総会と並行して「常
に民主主義を」会合を開催することにしている。昨年の会合には、米国も参加したが
、本年は、トランプ政権が過激主義に舵を切ったため、米国は招かないことにした。
本年の会合には、ドイツ、フランス、カナダ、メキシコ等、30ヶ国が参加する予定
。(21日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(4)ルーラ大統領は22日、ニューヨークで開催された、パレスチナ問題に関する
会議に出席した際、「ハマスのテロ行為は受け入れ難いものであるが、防衛の権利が
あるからといって、民間人を無差別に殺戮することは許されない。ガザ地区で起きて
いることは、パレスチナ人の虐殺だけではない。(パレスチナ)国家の夢を殲滅しよ
うとしている」と批判した。(23日付コレイオ・ブラジリエンセ)
1.米伯関係
(1)ルーラ大統領は23日、国連演説を行った後、控室でトランプ米大統領と数十
秒間に亘って立ち話をした。その後、トランプ大統領は、演説の中で、「先ほど、ル
ーラと会って、抱擁した。我々は良い会話をして、来週会うことで一致した。彼(ル
ーラ)は非常に好人物であるように見えた。彼は私のことを気に入り、私は彼のこと
を気に入った。私は、気に入った人としかビジネスはしない。会った時間は39秒程
度であったが、(ルーラとは)非常にケミストリーが合った」と述べた。但し、トラ
ンプは、「伯は、米国市民の権利と自由に干渉し、検閲、弾圧、司法機関の汚職、批
判者の迫害等により、今、高額の関税をかけられている。伯は、うまく行っておらず
、今後もうまく行かないであろう。彼らがうまく行くとすれば、それは我々(米国)
と手を組むことである。我々がいなければ、彼らは失敗するであろう」と、伯を批判
するのを忘れなかった。尚、この発言により、トランプとルーラの会談が来週にも実
現する運びとなったが、ヴィエイラ外相によると、対面で会談するのではなく、電話
会談又はオンライン会議になる可能性が高い。尚、ボルソナーロ派は、突然のトラン
プのルーラに対する賛辞に当惑の色を隠せないでいるが、エドゥアルド・ボルソナー
ロ下院議員(PL-SP)は、「これは、罠である。ルーラを引きずり出し、ゼレンスキ
ー・ウクライナ大統領に対してしたように、屈辱を与えるのが目的であるに違いない
。流石はトランプである」と述べ、矮小化に努めた。(24日付コレイオ・ブラジリ
エンセ及びフォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ルーラ大統領は24日、帰国前に記者会見を行い、トランプ米大統領が国連演
説の際にルーラとの会談について言及した件に関し、「会談が互いに相手をリスペク
トした上で行われることを期待している。会談は、二国間の通商関係の現状について
疑いの余地のない具体的な事実に基づいて行われるべきである。トランプ大統領の決
定の幾つかは、伯に関する情報の質に起因していると確信している。(米国が伯との
貿易で黒字を計上していること等)正しい情報を得れば、トランプも立場を変えるこ
とができるであろう」と述べたが、「議論の余地がないのは、伯の主権と民主主義で
ある。これらについては議論の余地はなく、トランプ大統領だけでなく、世界の如何
なる大統領とも議論しない。我々が伯の主権を譲ることはない」と述べ、ボルソナー
ロ前大統領の裁判については伯の立場を曲げないことを強調した。また、ルーラは
、「伯の国民と政財界は、(ルーラとトランプの)会談に関心を寄せている。多くの
投資がこれにかかっており、両国の通商関係は非常に重要である。会談が行われれば
、これらの全てが解決されると思う。そして両国は、調和の取れた関係を取り戻し、
化学的に安定した関係を築くことになるであろう。トランプが『ルーラとはケミスト
リーが合った』と言った時は嬉しかった。人との関係は、80%がケミストリーで
、20%は感情であると信じている。(トランプと)波長が合うことは非常に重要で
あり、この関係がうまく行くことを期待している」と述べた。(25日付コレイオ・
ブラジリエンセ及びフォーリャ・デ・サンパウロ)
2.ルーラ政権
ルーラ大統領は、国連総会から帰国後、ギリェルメ・ボウロス下院議員(PSol-SP)
を大統領府官房長官に任命することにしている。マセド現官房長官(PT)は明年、セ
ルジペ州から下院議員に立候補する。ルーラは、ユニオン・ブラジル等、中道派の閣
僚が抜けた穴を左派の政治家によって埋めることにより、明年の選挙に向けて左派勢
力の強化に繋げようとしている。(24日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
3.連邦議会
(1)モッタ下院議長は23日、米国滞在中のエドゥアルド・ボルソナーロ下院議員
(PL-SP)を少数派の下院院内総務にするとの申し入れを却下した。そのため、エド
ゥアルドは、長期間に亘って登院していないことが理由で、議員資格を失う可能性が
出てきた。実際、下院倫理委員会では23日、エドゥアルドの議員資格剥奪に向けた
手続きが開始された。(24日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)23日、モッタ下院議長とアルトゥール・リラ下院議員(PP-AL)が所得税の非
課税枠を月5千レアルに引き上げるための法案の採決を10月1日に行うことを決定
した。政府は、同法案を本年の最優先事項に掲げており、これが成立すれば、約
1450万人が恩恵を被ることになる。(24日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)24日、上院憲法司法委員会(CCJ)において、議員の訴追及び捜査を困難に
するための憲法改正案(PEC da Blindagem)が全会一致で否決され、同PECの廃案が
決定された。同PECは、野党PLと中道派勢力(セントラン)の後押しにより、下院で
は圧倒的多数で可決されたが、その後、インターネットを中心に同PECに対する批判
が高まり、今月21日の左派の抗議デモにおいても恩赦法案とともに槍玉に上がった
。(25日付コレイオ・ブラジリエンセ)
4.次期大統領選
ミシェーレ・ボルソナーロ前大統領夫人(福音派)は、英テレグラフ紙のインタビ
ューに応じた際、「神が望むならば、(次期大統領選に)出馬し、保守派の価値観を
守るため、雌ライオンのように戦う」と述べた。これまで同夫人は、連邦直轄区
(DF)から上院議員に立候補すると見られていた。尚、ボルソナーロ派の間では、同
夫人がフレイタス・サンパウロ州知事(Republicanos)の副大統領候補に指名される
可能性が取り沙汰されている。(25日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
5.ボルソナーロ前大統領の裁判
ボルソナーロの弁護団は24日、モラエス・STF判事に対し、自宅軟禁、SNS使用
禁止、GPSの装着等、ボルソナーロに科された制限措置の解除を申し入れた。(25
日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
6.外交
(1)ルーラ大統領は23日、国連演説を行った際、「伯の国家主権と民主主義を譲
ることはできない。我々は如何なる支配からも解放された独立国家として歩み続ける
」と強調した上で、民主主義、多国間主義、ガザ地区、SNSの規制、気候変動、国連
改革等について発言した。主な発言は以下の通り:「世界には6.7億人もの人々が
飢餓に苦しんでいる。誰もが勝者になれる唯一の戦争は、飢餓と貧困との戦いである
。これが飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの目標であり、既に103カ
国の支持を得ている」、「民主主義の活力は、不平等の削減と、食糧、安全、雇用、
住居、教育、健康といった最も基本的な権利の保障を前提としている。門戸を閉ざし
、世界の諸問題を移民のせいにするならば、民主主義は敗北する。貧困は、過激主義
と同様に、民主主義の敵である」、「伯は、前例のない攻撃を受けているにも拘わら
ず、これらに抵抗し、40年前に国民によって取り戻された民主主義を守ることを選
んだ。我々の制度や経済に対する一方的且つ不当な措置を正当化することはできない
」、「最も脆弱な立場にある人々を保護するのは、公的機関の責務である。規制とは
、表現の自由を制限することではない。現実世界で既に違法とされている行為が、仮
想空間でも同様に扱われることを保証するだけである」、「ベネズエラに対して対話
の道が閉ざされてはならない。ハイチは暴力のない未来を享受する権利がある。そし
て、キューバがテロ支援国家に指定されることは容認できない」、「パレスチナの人
々は消滅の危機に瀕している。彼らは、独立国家として国際社会に統合されることに
よってのみ、生き残ることができるであろう」、「ウクライナ紛争については、軍事
的な解決はないということは我々全員承知している。現実的な解決への道筋をつける
必要がある。それは、全ての当事国の正当な安全保障上の懸念を考慮に入れることを
意味する」(24日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ルーラ大統領は23日、ニューヨークで開催されたイベントにおいて、伯が「
永久の森林基金(TFFF)」に10億米ドルを拠出すると発表し、喝采を浴びた。同基
金の創設には、250億米ドルが必要とされている。伯は、COP30の開幕までに残り
の資金を調達することを目指している。(24日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(3)ルーラ大統領は24日、国連総会と並行して開催された民主主義に関する国際
会議に出席した際、極右勢力の台頭について、「民主主義者と左派はどこで間違えた
のであろうか? 極右が勢力を拡大しているのは、彼らの功績なのか、それとも我々の
無能さの故なのか自問する必要がある。民主主義勢力と左派が団結力を失い、市民社
会から乖離してしまったことが背景にある。我々が左派の主義主張を掲げて選挙に勝
っても、実際の政権運営では敵陣営に配慮して、彼らの利益になる政策の方を優先し
てきたことも問題である。これらの問題を解決することができれば、我々は右派に勝
つことができる。そうでなければ、既にそうなっているように、過激主義や否定主義
やファシズムに押しつぶされることになる」と発言した。(25日付コレイオ・ブラ
ジリエンセ)
(4)ルーラ大統領は24日、ニューヨークにおいて、ゼレンスキー・ウクライナ大
統領とバイ会談を行った。ゼレンスキーは会談後、「ルーラは、ウクライナの和平の
ためにできる限りのことをすると言ってくれた」と述べ、ルーラに謝意を表明した。
ルーラは、帰国前の記者会見において、「ゼレンスキーには、誰とでも話し、努力す
ると伝えた。(ウクライナ)紛争についてはトランプとも話すことにしている。彼(
トランプ)はプーチン露大統領の友人であるが、私もプーチンの友人である。友人が
二人も揃えば、より多くのことが可能になるであろう。我々(ルーラとトランプ)の
ケミストリーをゼレンスキーとプーチンに分けることができれば、予想外の方法で紛
争を解決することができるかもしれない」と述べた。(25日付フォーリャ・デ・サ
ンパウロ)
1.米伯関係
(1)伯政府は、ルーラ大統領とトランプ米大統領の国連総会における立ち話を受け
、米国に対する経済相互主義法の適用に関する手続きを延期することにした。貿易評
議会(CAMEX)では23日に経済相互主義法の適用について審査が行われる予定であ
ったが、政府の要請により、延期された。伯政府関係者によると、ルーラとトランプ
は、電話会談を行った上で、第三国において対面による会談を行う可能性がある。ル
ーラは、ASEAN首脳会議(10月26日~28日、マレーシア)とApec首脳会議
(10月31日、韓国)に出席する予定なので、トランプがその何れかに出席すれば
、両首脳の会談が実現することになる。(27日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)ラトニック米商務長官は27日、「我々は、スイス、伯、インド等、数多くの
国との間で問題を解決しなければならず、これらの国を正す必要がある。これらの国
は、市場を開放し、米国にとって有害な措置を止めることにより、米国との通商関係
を修復する必要がある。この問題を解決することは可能であるが、それには時間が必
要である。これらの国が米国に輸出したいのであれば、トランプ大統領のルールに従
ってプレーしなければならないことを理解しなければならない」と述べた。(29日
付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)伯外務省は、今週中にルーラ大統領とトランプ米大統領の電話会談(またはオ
ンライン会議)を実現すべく、調整中。両首脳は、ASEAN首脳会議(10月26日
~28日、於マレーシア)の他にも、今月13日のFAOの会議(於イタリア)におい
て会談する可能性がある。アルキミン副大統領は29日、「トランプ自身がルーラと
はケミストリーが合ったと言っているように、首脳会談が実現すれば、米伯関係の改
善に大きく貢献するであろう。G20の中で、米国が貿易黒字を計上しているのは、英
国、豪州及び伯の3ヶ国だけであり、米国にとって、伯との通商関係は問題ではない
。伯政府は、データセンター誘致計画(Redata)を立ち上げたところであり、希少鉱
物の開発等に関して投資を呼び込むことができる」と述べた。アダッジ財務相は
、「50%の関税により、米国内で日常的に消費されている物資の価格が高騰してい
るため、この関税が長続きすることはない。これは、人工的に作られた危機であり、
米国は自分で自分の首を絞めている」と述べた。(30日付コレイオ・ブラジリエン
セ)
(4)ルーラ大統領は29日、女性省のイベントに出席した際、「トランプ米大統領
と会う時には、ジャンジャ夫人も連れて行く」とユーモアを交えて述べた。これに対
し、ジャンジャ夫人は、笑いながら、手でパスのポーズを取った。(30日付フォー
リャ・デ・サンパウロ)
2.ルーラ政権
(1)Pulso Brasil/Ipespe社が今月19日から22日にかけて実施した世論調査による
と、ルーラ政権の支持率は、前回調査(本年7月)から7ポイント上昇して、50%
となり、不支持率(48%。3ポイント減)を上回った。下院の支持率は18%(6
ポイント減)、不支持率は70%(7ポイント増)。8月のボルソナーロ派による議
会立て籠もりや「議員の訴追及び捜査を困難にする憲法改正案(PEC da
Blindagem)」の可決が影響したと見られている。上院の場合、支持26%(1ポイ
ント増)、不支持59%(2ポイント減)であったが、こちらはPEC da Blindagemが
24日に上院で廃案になったことの影響は反映されていない。(26日付ヴァロール
・エコノミコ電子版)
(2)サビノ観光相(ユニオン・ブラジル)は26日、所属政党のユニオン・ブラジ
ルが連立与党離脱を決定したことを受け、ルーラ大統領に辞表を提出したが、ルーラ
とユニオン・ブラジルの交渉次第では、大臣を続けることは可能かもしれないと述べ
た。フフカ・スポーツ相(PP)も今月末までに辞任する予定。PPは、ユニオン・ブ
ラジルと政党連合を組み、連立与党を離脱することにしている。(27日付コレイオ
・ブラジリエンセ)
(3)連邦政府は26日、2015年のブルマジーニョ尾鉱ダム決壊事故の被害を受
けたミナスジェライス州及びエスピリトサント州の48市における医療施設の改善に
16億レアルを投資すると発表した。財源は、2024年に創設された「リオ・ドセ
基金」である。事故を引き起こした鉱山会社(Samarco)は、20年間で合計1千億
レアルを同基金に出資することになっている。(27日付コレイオ・ブラジリエンセ
)
(4)ルーラ大統領は28日、ブラジリアの官庁街で開かれた、教育省創立95周年
記念ランニング大会にジャンジャ夫人とともに参加し、3kmのコース(ウォーキング
の部)を35分で歩いた。ルーラは、「我々が政権に返り咲いた際、国民の68%は
まともな教育を受けていなかった。食糧安全保障や雇用や賃金だけではなく、我々は
教育分野でも進化しなければならない」と述べた。また、「ここではmotociata(ボル
ソナーロ前大統領が在任中に好んで行ったオートバイに乗ったデモ行進)が行われる
ことはない。我々は、教育者とのウォーキングを通じて教育の重要性を訴えていく」
等と述べ、ボルソナーロ前大統領を皮肉った。(29日付コレイオ・ブラジリエンセ
)
(5)ルーラ大統領は29日、「フィッシャ・リンパ(クリーン・レコード)法」改
正法の一部に対して拒否権を行使した上で、これを裁可した。ルーラが拒否権を行使
した主な条文は以下の通り:①議会で承認された法案では、有罪を宣告された、また
は議員資格を剥奪された政治家は、選挙の投票日に遡って、被選挙権が8年間に亘っ
て停止されることになっていた。改正前の「フィッシャ・リンパ法」では、刑期の終
了、または議員の任期終了後から数えて8年間となっていたため、これまで「フィッ
シャ・リンパ法」を適用された議員は、少なくとも2回連続で選挙に出られなかった
が、改正後は、1回だけ選挙に出られないで済むようになった。②政治家にとって有
利な規定を有罪が確定した場合も含めて遡及的に適用することを認める。(30日付
ヴァロール・エコノミコ電子版)
(6)ルーラ大統領は29日、母親の育児休暇の延長に関する法案を裁可した。これ
により、母子が出産後、2ヶ月以上に亘って入院した場合、120日間の育児休暇は
、退院の日から起算されることになった。尚、ルーラは、男女同一賃金法の施行
(2023年)後も相当数の女性が男性よりも低い賃金に甘んじている現状について
触れ、「男女の同一賃金を実現させるにはまだ戦わなければならない」と述べた
。(30日付コレイオ・ブラジリエンセ)
3.連邦議会
(1)下院で可決された「議員の訴追及び捜査を困難にするための憲法改正案(PEC
da Blindagem)」が上院で否決されたことを受け、上院と下院の関係がぎくしゃくし
ており、その影響で、ボルソナーロ前大統領等のクーデター未遂関係者及び三権襲撃
犯の減刑に関する法案を巡る交渉が停滞を余儀なくされている。下院では、世論の反
発を無視して減刑法案を可決しても、上院で否決されれば、「PEC da Blindagem」の
時と同様に、下院だけが国民から非難されることを警戒している。中道派勢力(セン
トラン)は、上院議員の発議による重要法案が下院において審議される際にこれを妨
害する等の報復を行うよう、モッタ下院議長に迫っている。減刑法案に関しては、報
告官のパウリーニョ・ダ・フォルサ下院議員(SD-SP)の提案では、ボルソナーロ前
大統領の場合、禁固27年3ヶ月の刑が半分程度に減刑されることになるため、与党
側が難色を示している他、全面的な恩赦を要求しているボルソナーロ派もこれに反対
している。尚、今のところ、パウリーニョ・ダ・フォルサ議員の減刑案に賛成してい
るのは、Republicanos、Solidariedade、PRD、Avante、PSDB、ユニオン・ブラジル
、PP及びPodemosの8政党であるが、これらの政党の下院議員を合わせても201名
にしかならないため、過半数(257票)には届かない。(26日及び27日付コレ
イオ・ブラジリエンセ及びフォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)上院と下院は、所得税の非課税枠見直し法案に関しても衝突している。下院で
は、同法案に関する審議が停滞している中、上院では、下院の法案と同様に非課税枠
を月収5千レアルに引き上げるとの法案が24日に可決された。下院の報告官を務め
るアルトゥール・リラ下院議員(PP-AL)が「上院は人気取りのために抜け駆けをし
た」と批判しているのに対し、上院の報告官を務めたレナン・カリェイロス上院議員
(MDB-AL)は、「下院は、非課税枠見直し法案を通すことの条件として、PEC da
Blindagemと恩赦法案の成立を要求してきたが、上院は、国民の利益を優先したに過
ぎない」と反論している。両者は、地元アラゴアス州でしのぎを削る政敵同士である
。(26日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)26日、下院倫理委員会において、エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-
SP)の議員資格剥奪に関する報告官にボルソナーロ派のデレガード・マルセロ・フレ
イタス下院議員(ユニオン・ブラジルーMG)が選出された。フレイタスは、2019
年にエドゥアルドと握手している動画をSNSに投稿した他、ボルソナーロ前大統領の
「大幅且つ無制限な恩赦」を支持する等、ボルソナーロ派として知られているが、フ
レイタス本人は、これがエドゥアルドの議員資格剥奪手続きに影響することはないと
主張している。(27日付コレイオ・ブラジリエンセ)
4.司法
(1)バホーゾ・STF長官は25日、STF長官として最後のセッションを執り行い
、「この2年間、STFの各判事は個人的な代償を払いながら、伯の民主主義と法の支
配を守り抜いた。STFの積極主義を批判する向きもあるが、国が二極化し、連邦議会
が常に機能するとは限らない状況においては、司法がデリケートな問題について判断
を余儀なくされる局面もある」と述べた。STF最年長のメンデス判事は、「バホーゾ
長官は、クーデター未遂の裁判に関して毅然とした姿勢を貫いた」と称賛した
。(26日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(2)29日、ファキン新STF長官とモラエス・STF副長官の就任式が執り行われた
。ファキン長官は、就任演説の際、「司法府の独立性は、特権ではなく、必要な前提
条件である。司法がポピュリズム等に屈服すれば、その信頼性が失われる」と述べた
。また、「裁判所の業務は、ショーではない。(裁判官には)自制が求められる」と
述べ、裁判官に対して必要以上のパフォーマンスを求める風潮を批判した。STF長官
の任期は2年であり、ファキンは、2027年9月までSTF長官を務める。(30日
付コレイオ・ブラジリエンセ)
5.ボルソナーロ前大統領の裁判
(1)野党PLは、表向きはボルソナーロ前大統領に対して「大幅且つ無制限の恩赦」
を求め続けているが、水面下では、恩赦法案ではなく、減刑法案の成立も止む無しと
して、刑務所への収監ではなく、自宅軟禁の継続を条件に減刑を受け入れる方に傾き
つつある。ボルソナーロに近い議員達は、「ボルソナーロの健康状態は良好ではなく
、刑務所での服役には耐えられないため、自宅軟禁が認められるのであれば、それに
越したことはない」と見ている。(26日付フォーリャ・デ・サンパウロ)
(2)モラエス・STF判事は29日、エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-
SP)が司法妨害罪の容疑で起訴された件に関し、「エドゥアルドは、犯罪行為を続け
、司直の手から逃れるために国外に滞在し続けている」として、エドアルドには公示
による送達を行うことを決定した。(30日付コレイオ・ブラジリエンセ)
6.2026年選挙
(1)フレイタス・サンパウロ州知事(Republicanos)は、議員の訴追及び捜査を困
難にする憲法改正案(PEC da Blindagem)や恩赦法を巡る右派の迷走、並びにボルソ
ナーロ前大統領がフレイタス知事を後継者に指名するのを渋っていることに意気消沈
しており、次期大統領選出馬に向けた動きは控えるようになっている。これに対し、
ラチーニョ・Jr・パラナ州知事(PSD)は最近、サンパウロ州の政財界関係者と会談を
重ねる等、大統領選出馬を見据えた動きが目立つ。(27日付フォーリャ・デ・サン
パウロ)
(2)ボルソナーロ派は、今月に入ってから敗北を重ねており、窮地に立たされてい
る。頼みのボルソナーロ前大統領は、自宅軟禁とSNSの使用禁止により、影響力を封
じられており、また、連邦議会においても、議員の訴追及び捜査を困難にする憲法改
正案(PEC da Blindagem)が廃案に追いやられ、恩赦法案は減刑法案に取って代わら
れようとしている。それにも拘わらず、エドゥアルド・ボルソナーロ下院議員(PL-
SP)が減刑を拒否し、あくまでも「大幅且つ無制限の恩赦」を要求し続けることで、
減刑法案の成立すら覚束なくなってきている。また、エドゥアルドは、フレイタス・
サンパウロ州知事(Republicanos)の大統領選出馬に反対し、自ら大統領に立候補す
ると公言することで、右派の分裂を招いている。このような現状に対し、ボルソナー
ロ政権で文官長を務めたシロ・ノゲイラ上院議員(PP党首)は、「右派は結束しなけ
ればならない。でなければ、勝てる選挙にも勝てなくなる」と苦言を呈している。尚
、ボルソナーロ派は、再び恩赦の機運を高めるため、今月30日(火)にブラジリア
の官庁街でデモ行進を行うことにしている。(28日付コレイオ・ブラジリエンセ)
(3)フレイタス・サンパウロ州知事(Republicanos)は29日、ボルソナーロ前大
統領を訪問した後、記者団に対し、「以前から言っているように、自分は(大統領で
はなく、サンパウロ州知事に)再選立候補する。本日は、友人として、ボルソナーロ
を訪問しただけである」と述べた。また、同知事は、ボルソナーロの恩赦を主張した
。ボルソナーロとフレイタスの会見に同席したフラヴィオ・ボルソナーロ上院議員
(PL-RJ)は、「父ボルソナーロが2026年に街頭に繰り出すことができるよう、
最後まで頑張る。大統領選に関する決定は、恩赦法案の成り行き次第である。(恩赦
法案の)結果が判明するまでは、如何なる決定も行われることはない」と述べた。尚
、フレイタス知事によると、ボルソナーロは、会見中もしゃっくりが止まらず、苦し
そうにしていた。次男カルロスによると、ボルソナーロは、しゃっくりが止まらず、
また、嘔吐を繰り返しているため、近日中に病院に搬送される必要がある。(30日
付フォーリャ・デ・サンパウロ及びコレイオ・ブラジリエンセ)
7.外交
40ヵ国の活動家が船団(Global Smud Flotilla)を率いてガザ地区に支援物資を運
ぼうとしているが、イスラエルの海上封鎖に阻まれている。ルジアーネ・リンス下院
議員(PT-CE)等によると、この船団にはブラジル人の活動家17名が乗船しており
、船団はドローンによる攻撃を受けている。そのため、伯の下院議員グループは、ル
ーラ大統領、ヴィエイラ外相及びムシオ国防相に対し、これらブラジル人の保護を求
めている。尚、イスラエル政府は、この船団を「ハマスの船団」と呼んで敵視してい
る。(28日付コレイオ・ブラジリエンセ)

