FIFA2026 World Cup北中米大会よもやま話 (その2)
- 1 日前
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執筆者:桜井 悌司 氏(日本ブラジル中央協会&ラテンアメリカ協会顧問)
2026年6月に、ラテンアメリカ協会の投稿欄で「FIFA 2026 World Cup北中米大会よもやま話」を執筆したが、本稿は、その第2弾である。
FIFA2026ワールドカップ北中米大会は、6月12日に始まり、7月19日に幕を閉じた。ス
ペインがアルゼンチンに1対0で勝利し、2度目の優勝を飾った。日本は一次リーグに進
んだものの、決勝リーグ第1回戦でブラジルに2対1で敗れ去った。ワールドカップ期間
中、サッカーフアンは、興奮と感動に包まれた感があった。
今回の大会は、様々な意味で、従来の大会とかなり異なるものであった。まず最初に、出
場国が従来の32ヶ国から一気に48ヶ国になったこと、第二に、ハイドレーション・ブレ
ークという給水タイムが設けられたこと、第三に、VAR(ビデオ・アシスタント・レフリ
ー)によってオフサイド等の判定が厳格になったこと、第四に、カナダ、米国、メキシコ
という広大な面積にまたがる3ヶ国共催となったことである。
本稿では、大会期間中、終了後に判明した様々なトピックについて紹介する。
1) 出場国が36から48に拡大されたことのメリット、デメリット
今大会は、従来の36ヶ国から一挙に48か国に拡大した。この結果、従来の64試合から104試合と増加した。このことについては、メリット、デメリットが指摘されている。メリットとしては、参加国数の増加によって今までに出場できなかった国にもチャンスが出てきたこと、また放映権や主催国の複数化等により、ビジネスの機会が増えるというようなことが挙げられている。一方デメリットとしては試合数の増加による日程の過密化やサッカー強国とそうでない国との格差による一方的な試合が増加する等々指摘されている。これらを見てみよう。
① 一方的な試合の増加は?
サッカーは他のスポーツと異なり、得点の入りにくいスポーツである。0対0,1対1,2対1等少数点により、勝利が決まることが多い。筆者は、サッカーで一方的な試合というのは、4点以上の差がついた試合と考えている。余談になるが、サッカーのフアン同士の争いは4点以上の一方的な試合の際に起こることが比較的多い。引き分けとか1対0とか2対1の場合、双方が健闘したことになるので通常、争いは起こらない。しかし、得点に4点以上の差が出ると、勝者のフアンが敗者のフアンを挑発したり、敗者が悔し紛れに勝者に喧嘩を売ると言ったことが起こる。
今回、予選リーグで4点以上の差がついた試合をリストアップしたのが下記の表である。
前回のカタール2022やロシア2018の場合、わずか2試合ずつであったが、今回の北中米2026では、何と9試合と急増したのである。すべて予選リーグでの試合である。これは明らかに48か国に拡大したことから生じた現象だと思われる。
表1 過去3回の大会における4点差のついた試合と試合数
大会 | 出場 国数 | 予選 試合数 | 4点差 試合数 | 試合名 |
2026北中米 | 48 | 72 | 9 | カナダ6-カタール0、ドイツ7-キュラソー1、スウエーデン5-チュニジア1,オランダ5-スウエーデン1、日本4-チュニジア0、ベルギー5-ニュージーランド1、スペイン4-サウジアラビア0、セネガル5-イラク0、ポルトガル5-ウズベキスタン0、 |
2022カタール | 32 | 48 | 2 | イングランド6-イラン2、 スペイン7-コスタリカ0 |
2018ロシア | 32 | 48 | 2 | ロシア5-サウジ0、 イングランド6-パナマ1 |
① 急増したゴール数
今回のワールドカップ大会では、得点王争いが話題になった。エムバペ、メッシ、ハーランド、べリンガム、ケイン、デンペレ等が激烈な競争を展開したからである。下記の表2は、過去5大会で3点以上得点した選手名と得点数をみたものである。これをみると興味深いことがわかってくる。
2010年南ア大会では、3点以上得点した選手数は、11名でその総得点数は、44点、2014年ブラジル大会では、10名、38点、2018年ロシア大会では、12名、47点、2022年カタール大会では、11名、44点と得点者数では、10名から12名、合計得点では、38点から44点と大きな変化はなかった。しかし、北中米大会では、一気に28名、105点と激増したのである。出場国の拡大に伴う試合数の増加を考慮しても異常な伸びである。この現象も出場国の拡大により、従来であれば決して参加できなかった国々の参加増によるものと考えられる。
表2 過去5大会で3点以上得点した選手と得点数
大会名 | 選 手 名 | 選手数 得点数 |
2026 北中米 | キリアン・エムバペ10点、リオネル・メッシ8点、アーリング・ハーランド、ジュード・べリンガム(2名)7点、ハリー・ケーン、ウスマン・デンペレ(2名)6点、ミケール・オヤルサバル、5点、イスマイ・ラサール、フリアン・キニョーネス、ヴィニシウス・ジュニオール(3名)4点、デニス・ウンダヴ、ヨハン・マンザンビ、ロメル・ルカク、シャルル・テ・ケテラーレ、コーディ・ガクボ、ブライアン・ブロビ、イライジャ・ジャスト、マテウス・クーニャ、フォラリン・バログン、ラウル・ヒメネス、カイ・ハフエルツ、ヨアン・ウイッサ、イスマエル・サイバリ、ジョナサン・ディヴィッド、クリステイアーノ・ロナルド、ラウタロ・マルテイネス、ブラッドリー・バルコーラ、ブカヨ・サカ(18名)3点 | 28名 105点 |
2022 カタール | キリアン・エムバペ 8点、リオネル・メッシ 7点、オリヴィエ・ジル―、フリアン・アルバレス(2名)4点、ゴンサロ・ラモス、アルバロ・モラタ、 マーカス・ラッシュフォード、 ブカヨ・サカ、 リシャルリソン、 エネル・バレンシア、 コーディ・ガクポ(7名)3点 | 11名 44点 |
2018 ロシア | ハリー・ケーン 6点、クリスティアーノ・ロナルド、キリアン・エムバペ、ロナルド・ルカク、アントワーヌ・クリスマン、デニス・チェリシェフ(5名)4点、イバン・ベリシッチ、アルテム・ジューバ、エジソン・カバーニ、マリオ・マンジュキッチ、ジェリー・ミナ、エデン・アザール、ジエゴ・コスタ(7名)3点 | 12名 47点
|
2014 ブラジル | ハメス・ロドリゲス 6点、トーマス・ミューラー 5点 リオネル・メッシ、ネイマール、ロビン・フアン・ペルシ―(3名) 4点、エネル・バレンシア、アンドレ・シュールレ、アリエン・ロッベン、ジェルダン・シャキリ、カリム・ベンゼマ(5名)3点 | 10名 38点 |
2010 南ア | トーマス・ミューラー、ダビ・ビジャ、ヴェスレイ・スナイテル、ディエゴ・フォルラン (4名)5点、ミロスラフ・クローゼ、ゴンサロ・イグアイン、ロベルト・ヴィテック(3名)4点、ルイス・スアレス、ルイス・ファビアーノ、アサモヤ・ギロン、ランドン・ドノバン(4名)3点 | 11名 44点 |
② サッカーの強い大陸と弱い大陸の格差は?
過去のワールドカップ優勝国をみてみると、ブラジル5回、ドイツ、イタリア4回、アルゼンチン3回、ウルグアイ、フランス、スペイン2回、イングランド1回と8ヶ国のみである。
これからもわかる通り、サッカーと言えば、何と言ってもヨーロッパと南米である。下記の表3は、今回の大会で一次リーグで敗退した国のリストである。これをみると強い地域は、従来のヨーロッパと南米は変わらないが、今回、アフリカ勢の健闘ぶりが光る。一方弱い地域としてアジアが挙げられる。最初こそ勢いがあったが、出場国9カ国の内決勝トーナメントに進んだ国は、日本とオーストラリアのみで、その2ヶ国も決勝リーグの第一戦で、日本はブラジルに、オーストラリアはモロッコに敗退している。中米カリブ海諸国も弱い地域、言い換えれば競争の激烈でない地域に入る。アジアは他のアフリカ諸国、ラテンアメリカ諸国に比較し、経済的に余裕が出てきたせいか、ハングリー精神が弱くなっていることもその原因かもしれない。米スポーツ専門局「ESPN」は「近年ではワーストのアジア勢のパフォーマンスだろうか?」と題した記事を掲載した。今後のワールドカップでは、アジア諸国の底上げが課題になって来るものと思われる。抜かりの無いFIFAはビジネスの観点からそう考えているに違いない。
表4をみると、地域別の優劣が鮮明になる。16位まで残った国は、欧州が7ヶ国、南米が4ヶ国、北米が3ヶ国、アフリカが2ヶ国で、8位以内となると、欧州6ヶ国 南米1ヶ国、アフリカ1ヶ国と欧州諸国の優位性が鮮明となる。欧州が一人勝ちの様相で南米もやや陰りが見られる。
表3 北中米大会における連盟別一次リーグ敗退国と敗退率
連盟名 | 出場国 | 1次リーグ敗退国 | 敗退率 |
AFC(アジアサッカー連盟) | ⑨ 日本、イラン、ヨルダン、韓国、ウズベキスタン、オーストラリア、サウジアラビア、カタール、イラク | ⑦ イラン、ヨルダン、韓国、ウズベキスタン、サウジアラビア、カタール、イラク | 78% |
CAF(アフリカサッカー連盟) | ⑩ アルジェリア、カポベルデ、コートジボワール、エジプト、ガーナ、モロッコ、セネガル、南ア、チュニジア、コンゴ民主共和国 | ① チュニジア | 10% |
CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟) | ⑥ 米国、カナダ、メキシコ、キューラソー、ハイチ、パナマ | ③キューラソー、 ハイチ、パナマ | 50% |
CONMEBOL(南米サッカー連盟) | ② アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ウルグアイ | ① ウルグアイ | 17% |
OFC(オセアニアサッカー連盟) | ① ニュージーランド | ①ニュージーランド | 100% |
UEFA(ヨーロッパサッカー連盟) | ⑯ オーストリア、ベルギー、クロアチア、イングランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウエー、ポルトガル、スコットランド、スペイン、スイス、スウエーデン、チェコ、トルコ、ボスニアヘルツゴビナ | ③スコットランド、チェコ、トルコ
| 19% |
国数 | 48ヶ国 | 16ヶ国 | 33% |
表4 FIFA 2026ワールドカップ北中米大会における連盟別勝ち残り国数
連盟名 | 48位 | 32位 | 16位 | 8位 | 4位 | 2位 | 優勝 |
AFC(アジアサッカー連盟) | 9 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
CAF(アフリカサッカー連盟) | 10 | 9 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 |
CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟) | 6 | 3 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 |
CONMEBOL(南米サッカー連盟) | 6 | 5 | 4 | 1 | 1 | 1 | 0 |
OFC(オセアニアサッカー連盟) | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
UEFA(ヨーロッパサッカー連盟) | 16 | 13 | 7 | 6 | 3 | 1 | 1 |
④ 一次リーグ敗退国の心情は?
出場国数が、従来の32ヶ国の場合、決勝リーグ16ヶ国に進む確率は、50%であった。しかし、今回の場合、出場国48ヶ国のうち決勝リーグに進む国は32ヶ国で、確率的には、67%である。一次リーグ敗退国は、16ヶ国、33%となる。すなわち、決勝進出の確律が高くなり、より多くの国が決勝リーグに進むことになった。
このことは、第三者が考えるほど単純な話ではない。熱狂的なサッカーフアンを持つ国が、決勝リーグに進めない場合の落胆度合いは依然と比べて、極めて大きいものになる。アジアのサッカー強国韓国が一次リーグで敗退したことは韓国内外で大きくマスコミに取り上げられた。韓国の李在明大統領が自身のXを更新し、韓国サッカー協会の組織運営や人事を厳しく批判する事態になったのだ。日本だととても考えられないことだが、韓国大統領自らが、ホン・ミョンボ監督や彼を任命した韓国サッカー協会を名指しで非難することになった。韓国のメデイアでは、「史上最悪のワールドカップ」、「屈辱の日」などと報じられている。さらに韓国の国会は、7月22日に「韓国サッカー協会の懸案に関する公聴会が開催される予定で、ホン・ミョンボ監督当3人の証人と10人の参考人を呼ぶという大問題にまでなっている。不正を許さないという韓国人のメンタリティが一次リーグで敗戦したことによって積年の課題であるサッカー協会の運営の不透明性を巡って爆発したのだ。
韓国サッカー協会と財閥の関係については、アジア経済研究所の「IDE スクエア」のコラム;スポルテイクス」の第11回「韓国―大会直前に終焉を迎えたサッカー協会と財閥の蜜月関係」に詳しく紹介されている。このシリーズでは、その他にも、サッカーにまつわるカボ・ヴェルデ、キューラソ、エジプト、セネガル、アルゼンチン等の興味あるストーリーを取り上げている。
FIFAのインファンティーノ会長は、将来出場国の枠をさらに拡大し、48ヶ国から64ヶ国に拡大することを検討すると発表しているが、これ以上出場国を拡大すれば、サッカーの面白みが半減すると考える。
2)ハイドレーション・ブレークを巡って
今大会から前半・後半の45分の間に3分間のハイドレーション・ブレーク(飲水タイム)が設けられることになった。その目的は、北中米の過酷な暑さから選手を守り、水分補給と身体の冷却を行なうためと説明されている。確かに地球の温暖化現象により、世界中で気温が上昇し、開催国での気温も高く、やむを得ない措置とも考えられる。しかし、サッカーフアン、選手、指揮官から見ると「試合のリズムが中断される」ことになる。サッカーの試合となれば、前後半各45分、休憩時間15分に加えてロスタイム数分でほとんどすべての試合が2時間以内で終了した。しかし飲水タイムが導入されてからは2時間を超えるケースが多くなった。7月2日付けの日本経済新聞のコラム「春秋」でハイドレーション・ブレークを新鮮だと感じると述べているが、多くのサッカーフアンは、「何のメリットもない」、「サッカーの本質を変える」と思っているに違いない。
ハイドレーション・ブレークには、莫大な広告収入によって大金が動くメカニズムになっているという側面がある。給水休憩の間、TV局は最大130秒間のCMを放映することが認められており、大会全体では、広告放送時間が7時間30分を超える計算になると報じられている。米経済紙『The Wall Street Journal』によると、W杯期間中の30秒CMの広告料が20万ドル(約3200万円)に達し、開催国のアメリカ代表戦では70万ドル(約1億1200万円)以上に跳ね上がり、決勝トーナメント以降はさらに価格が上昇する可能性があると伝えている。一説によると、広告収入は、403億円規模になるという。7月17日付けの日本経済新聞夕刊によると、米誌ハリウッド・リポーターの記事として、最低2.5億㌦ドル(約400億円)、最大5億ドル(約800億円)に達すると伝えている。米フォーブス誌は、放映局のFOXスポーツがFIFAに支払った放映権料を上回る可能性もあると報道している。
FIFAは、相次ぐ非難に対し声明を出し、インファンティーノ会長のコメントとして、「商業契約はすべてかなり前に締結されているため、FIFAに追加の収益が入ることはない。したがって、我々にとってこれは金銭的な問題ではない。」と伝えている。確かに、給水タイムが多くの国との放映権締結以前に決定されたのかについての情報を持ち合わせていないが、少なくとも、結果としては、今後のFIFAの放映権交渉に有利に働くことは間違いない。
アルゼンチンの新聞「Diario Mendoza Today」によれば、マラドーナは、亡くなる2年前の2018年に、地元メディアの取材で北中米開催について「気に入らない。(サッカーへの)情熱がない。「米国人は広告を入れるために、25分を4ピリオドにしようとしていた。100分間プレーさせようとしていたんだ」とW杯の商業主義化を懸念していたという。予言が的中したと報じている。
米国のESPNは、このシステムの導入によって、従来の「前後半制」から、実質的に4分割制度に分かれたスポーツへ変化しつつあると指摘する。各国の監督や選手たちは、90分を4つのパートに分けて戦う新たな戦略への適応を求められ、試合の流れや戦術面でフレキシブルに対応せざるを得ないと伝えている。
次回のFIFA2030スペイン・ポルトガル・モロッコ大会、次々回のFIFA2034サウジアラビア大会は気温の高い国々で開催されるのでいったん導入したハイドレーション・ブレークを廃止するのは困難であろうが、サッカーの面白みが減少したことは多くのサッカーフアンの認めるところであろう。
3)39歳以上の選手は?
39歳の長友佑都選手が日本代表に選ばれたことはマスコミでも大きな話題となった。森保監督は「大和魂」を体現する存在として、ベテランは日本のためにどうプレーすべきか、どんな心構えが必要かを示してくれる」と語ったそうだ。そこで、今回、(株)ベースボールマガジン社発行の「FIFA WORLD CUP 2026 選手名鑑&GUIDE BOOK」を活用して、39歳以上の選手をリストアップしてみたのが下記表である。これをみるとおおよそ2つのタイプに分かれる。最初のタイプは、絶対的レジェンドでまだ現役かつリーダーとして活躍している選手である。例えば、アルゼンチンのリオネル・メッシ、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナルド、クロアチアのルカ・モドリッチ等である。いずれもFIFAのバロンドール賞を獲得している。カポ・ヴェルデのゴールキーパーのヴォジーニャも現役で、スペイン戦やアルゼンチン戦で好セーブを連発した。ヴォジーニャ選手の活躍もあり、7月14日付けのブラジル日報紙によると、ブラジルの北東部ペルナンブコ州のレシフェとカーポ・ヴェルデのイーリャ・ド・サルを結ぶ直行便がカーポ・ヴェルデ航空によって開設されたという。
もう一つのタイプは、必ずしも先発メンバーではないが、過去のワールドカップに出場したり、海外で活躍したことがあり、それらの経験を活かし、チームの選手を鼓舞し、チームに活気と団結を与える役割を果たすタイプである。これらの中には、我らが長友佑都選手などが含まれる。テレビの映像を見る限り、長友選手は、チーム全体に目を配り、選手を激励したり鼓舞したり、アドバイスをしたりと八面六臂の活躍であった。今や彼の選出には、誰も異議を挟まないのではなかろうか。
表5 FIFA2026北中米大会における40歳以上のプレーヤーのリスト(A~L組順)
選手名 | 所属国 | 年齢 | コメント |
Guillermo Ochoa | Mexico | 41 | メキシコのレジェンド、6度目のワールド・カップ出場 |
Edin Dzeko | Bosnia-Herzegovina | 40 | 欧州の名門クラブで活躍。同国代表の最多出場・最多得点記録保持者 |
Sebastian Soria | Qatar | 42 | ウルグアイ生まれで、カタールリーグで活躍、カタールに帰化 |
Craig Gordon | Scotland | 43 | スコットランドリーグで活躍、ゴールキーパー |
Hernan Galindez | Ecuador | 39 | アルゼンチン生まれでエクアドルに帰化、ゴールキーパー、2度目のワールドカップ |
Yuto Nagatomo | Japan | 39 | FC東京、ミラノ・インテル等で活躍。ワールドカップ出場5回目 |
Vozinha | Cabo Verde | 40 | カポベルデの絶対守護神的存在、スペイン戦の活躍でインスタのフォロ―ワ―が5万から2852万(7月10日現在)に急増 |
Fernando Muslera | Uruguay | 40 | ゴールキーパー、ワールドカップ出場5回目 |
Lionel Messi | Argentina | 39 | バロンドール8回、ワールドカップ出場6回目 |
Cristiano Ronaldo | Portugal | 41 | バロンドール5回、ワールドカップ出場6回目 |
Luka Modric | Croatia | 40 | バロンドール1回、ワールドカップ出場3回目 |
Alberto Quintero | Panama | 39 | MF、メキシコ、ペルー等で活躍 |
4)タトゥ―とサッカー選手
ワールド・カップのテレビ中継を見ていて、気づくことがある。相当多くの選手が腕や首にタトゥ―をしていることである。タトゥ―は欧州、米国、中南米では決して珍しいことではなく、有名なデービッド・ベッカム、ディエゴ・マラドーナ、ズラタン・イブラヒモビッチ、メッシ、ネイマールもタトゥ―が目立つ選手だった。
サッカー選手がタトゥ―を彫る理由には、キリスト像等宗教関連、家族の顔・絆、強い動物、文字、ドラゴンボール等日本のアニメやファッションや趣味関連等々があり、選手はタトゥ―で個性の表現を行っているようだ。
インターネットなどの情報によると、南米でもタトゥ―が盛んで、アルゼンチンでは、60%がタトゥ―を彫っており、ブラジルやチリと比べてタトゥ―人口は多いという。そこで、少し好奇心を発揮して、今回FIFAワールドカップに出場しているアルゼンチンの選手のタトゥ―の彫り具合を調べることにした。後期高齢者につき時間があるので、7月3日に行われたアルゼンチンとカポ・ヴェルデの試合を録画し、早送りしたり、選手が大きく映る場合は静止画像にして、腕や首にタトゥ―をしているかを背番号を確認しながらチェックしてみた。当日のアルゼンチンの先発メンバーは、下記の陣容であった。
FW L.メッシ 10番 FW L.マルテイネス 22番 FW T.アルマーダ 16番
MF A.マク・アリステル 20番 MF E.フェルナンデス 24番 MF R.デ・パウル 7番 DF C.ロメロ 13番 DF L.マルテイネス 6番 DF F.メディーナ 25番 DF N.モリーナ 26番 GK E.マルテイネス 23番。
チェックしたところ全員がタトゥ―を施していたことがわかった。驚くべきタトゥ―人気である。ちなみに、https://times.abema.tv/fifaworldcup/articles/-/10059772 で検索すると、ニコ・オタメンディ19番、レアンドロ・パレーデス5番、デ・パウル7番、エンソ・フェルナンデス24番、アレハンドロ・ゴメス17番の各選手のタトゥーが写真入りで紹介されている。
5)FIFAの政治的中立性を巡って
前回の連載エッセイ596の「FIFA2026 World Cup北中米大会」で、FIFAのインファンティーノ会長がトランプ大統領に「FIFA世界平和賞」を授与した話と「イランの代わりにイタリアを出場させる」話を紹介した。米国によるFIFAの政治的中立性への介入は続いており、今回のよもやま話では、米国によるイランの代表選手に対するビザの発行制限と米国のフォラリン・パログン選手のレッドカード、一発退場とその後の動きについて紹介する。
「イラン選手に対するビザ発給の問題」
イランは、当初米国のアリゾナ州トゥ―ソンに代表チームの拠点を置く予定であったが、メキシコのティファーナに変更した。トランプ大統領が3月に、イランのW杯参加は歓迎するとしつつ、「彼ら自身の生命と安全のために」イラン代表が米国に滞在するのは適切ではないとの考えを示したからである。米国のイラン選手団に対する対応は極めて厳格で、イラン代表選手全員にビザが発給されたのは初戦のわずか10日前であった、当初、試合の24時間前以降に米国に入国し、同日中に出国することが求められていた。1次リーグ3試合目については試合の2日前から米国入国が許可されたが、試合後は、前回と同じく同日中に出国するよう要請されていた。イランのアミル・ガレノエイ監督が、イランが、「最も不当な扱いを受けている」チームだと述べたのも理解できる。このような不利な条件下ではあったが、イランは一次リーグでは、ニュージーランドとは2対2,ベスト8の強豪ベルギーとは0対0,ベスト16のエジプトと1対1で引き分け、負け知らずであったが、残念ながら敗退した。米国とイランの和平条約交渉が進んでいる時期であったにも拘らず、サッカーを愛するイラン国民をも敵に回してしまったのである。FIFAは、ビザの発給は主催国の管轄であると主張し、米国に対するビザ発給条件緩和に関する働きかけはほとんどなかったようである。
「米国パログン選手に対するレッドカード問題についての対応」
事の起こりは、7月5日に行われた決勝リーグ1回戦、米国とボスニア・ヘルツェゴビナ戦で、米国のエース的存在であるフォワードのフォラリン・パログン選手が、相手チームのディフェンスの足首を踏み、ビデオ鑑定を経て、レッドカード一発退場、次のベルギーとの試合の出場停止処分が言い渡されたのである。これに対し、トランプ大統領がFIFAのインファンティーノ会長に電話した結果、「懲戒規定第27条に基づき、米国代表のバログン選手に適用される1試合出場停止処分について、1年間の猶予期間中、その執行を保留する」と発表し、判定を覆したのである。この信じられない決定にベルギーサッカー協会や欧州サッカー連盟(UEFA)など大いに反発し、早速抗議を行った。FIFAの会長は、決定はFIFAの懲戒委員会の判断と逃げを打っているが、誰がみてもFIFAのスキャンダル的決定と言えよう。ベルギーは次の米国戦で、発奮したのか4対1で圧勝した。ベルギーのルカク選手はゴール後、チームメートとともに、中腰で拳を握り、左右に体を揺らす「トランプ・ダンス」を思わせるパフォーマンスも披露した。その後、英国のサンデータイムズによると、パログンのレッドカードを取り消しの決定は、FIFA規律委員会委員長であるのモハマド・アル・カマリ氏(UAEアラブ首長国連邦)が単独で行ったものだという。他の17人のメンバーは誰も相談を受けなかったとのこと。まさにFIFA伏魔殿的様相である。
事態は、パログンの1件にとどまらなかった。イングランド代表DFのジャレル・クアンサーが決勝リーグ第2戦のメキシコとの試合で、一発退場となり、2試合の出場停止が言い渡された。パログンとの対比において、英国の著名な元代表等は辛辣なコメントをしている。
6)閉会式に出席するトランプ大統領に対して、8万人の大ブーイング
通常、ワールドカップと言えば、一国の元首や大統領は、開会試合には出席するのが通例であるが、今回のワールドカップは、従来のカップとは相当異なるものであった。アステカ・スタジアムでのオープニング・ゲームのメキシコ―南ア戦には、メキシコ・シテイであるにも関わらず、クラゥディア・シエィンバゥム大統領は出席しなかったし、ロサンゼルスで開催された米国での最初の試合、米国―パラグアイ戦にトランプ大統領の出席はなかった。さらにトロントで行われたカナダ―ボスニアヘルツエゴビナ戦でもカナダのマーク・カーニ―首相の姿もなかった。
そうこうしているうちに、トランプ大統領が、7月19日、ニューヨーク・ニュージャージー・スタジアムで開催される最終戦に出席して、インファンティーノ会長と一緒に優勝チームにトロフィーを贈呈すると報道された。過去2大会はインファンティーノ会長がトロフィーを授与しており、大統領との共同授与は、近年の慣例とは異なるという。
最終的に、優勝決定戦は、スペインとアルゼンチンとなった。トランプ大統領とアルゼンチンのミレイ大統領の関係は極めて良好だが、スペインとの関係は最悪だ。7月に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の際、スペインとの貿易を全面停止する意向を示したことがニュースになった。背景には、対イラン戦争で米軍に基地使用を認めず、トランプ氏の怒りを買ったことがある。サンチェス首相はかねて米国のイラン攻撃を批判、防衛費の対GDP比が低いことも、対米関係ではマイナス材料となっていた。
結局、トランプ大統領の期待に反し(?)、スペインが優勝した。閉会の表彰式にインファンティーノFIFA会長と一緒に現れたトランプ大統領に対して、8万の観衆から予想通り大ブーイングがおこった、式典には、共同開催国のメキシコのシェインバゥム大統領、カナダのカーニ―首相、フェリペ6世スペイン国王も出席していた。トランプ大統領のせいで、これら要人もとばっちりを受けたことになる。現在、米国とカナダの関係は最悪だし、米国とメキシコとの関係も良好ではない。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)もぎくしゃくしている。トランプ大統領は、左の立ち位置にいたシェインバウム大統領やカーニー首相とは、お互いに見向きもせず、インファンティーノ会長と2人で順繰りに選手にメダルを渡していた。スペインの選手たちも淡々と握手し、メダルを受け取っていた。シェインバウム大統領は、スペインのロドリ選手に大会MVP賞を、カーニー首相は、シモン選手に最優秀ゴールキーパー賞を授与した。W杯トロフィーをスペインのキャプテンに手交後、チームがトロフィーを掲げ記念写真を撮るのだが、トランプ大統領は、その場に居続けようとしたため、あわてたインファンティーノ会長が表彰台の端へ移動させたシーンが、映像に残っている。フェリペ6世国王は、スペイン選手全員と抱擁し、慰労と感謝の意を表していたが、その姿は、素晴らしいものであった。その後、スペイン・チームと一緒に優勝の歓喜を祝っていたのが印象的であった。
7)そして次回ワールドカップ2030と次々回ワールドカップ2034は?
来年の話をすると鬼が笑うと言うが、次回と次々回のワールドカップの話をしようものなら鬼は大笑いするかもしれない。
ワールドカップを組織するとなるとそれは大変な計画力、組織力、運営力が必要であり、膨大な業務量・作業量が発生する。厳密な工程管理も必須である。ワールドカップは、万国博覧会、オリンピックと並んで3大イベントと言える。今回の北中米大会、次回のスペイン・ポルトガル・モロッコ大会、次々回のサウジアラビア大会の3つのワールドカップの開催国のイベント組織運営経験を最初に表6で見てみよう。
今回の北中米大会の3ヶ国はほぼ申し分のない大型スポーツ・イベント開催国と言えよう。米国は万博、オリンピック、ワールドカップとすべて経験しているし、メキシコは、今回で3度目のワールドカップ開催の経験があり、オリンピックも経験している。カナダもオリンピック、万博を経験している。距離の移動は大変であったが、おおむね3ヶ国のスタジアム等のインフラ状況も揃っていた。
次回のスペイン・ポルトガル・モロッコ大会では、スペインが全ての大型イベントやスポーツ・イベントの経験国である。ポルトガルは、リスボン万博を経験している。モロッコは大型イベントの経験はない。ただ、3ヶ国ともサッカー強国であり、国内リーグも盛んで、スタジアム等インフラも揃っており、3国間の距離もさほどではないので、それほど心配することはないであろう。
しかし、問題となりそうなのは2034サウジアラビア大会である。そう言うと、2022年にはアラブの人口小国であるカタールでも組織したではないかという人もいよう。前回カタール大会の場合、参加国数は、32カ国で8会場が使用された。その内、4つのスタジアムが2021年、2つが2020年、1つが2019年と大会直前に完成した。そのため多数の外国人労働者を過酷な労働条件・気候のもとに低賃金で働かせたとして国際的に大問題となった、今回の北中米大会では、48ヶ国の参加で、米国11都市、メキシコ3都市、カナダ2都市の16都市で開催された。サウジ大会の場合、参加国数は、インファンティーノFIFA会長が提案しているような64ヶ国にはならないにしても、少なくとも48ヶ国となろう。首都リヤドで、現在92,000人収容の大型スタジアムが建設中とのことであるが、インターネット等で調査すると、現在サウジアラビアにあるスタジアムは6万人以上収容の2スタジアム、3万人以上収容も2スタジアム、2万人以上収容11スタジアムとなっており、FIFAの要請する基準にはスタジアム数、収容能力において、現状では、とても応じきれない状況である。カタール大会が8会場であれば、サウジアラビア大会は、参加数の増加を考慮に入れるとその1.5倍の12ヶ所くらいの適当なサイズのスタジアムが必要とされるであろう。8年先のことであるので、まだ時間的余裕はあるが、カタール大会の二の舞が確実に起きる可能性が大いにある。またスタジアムを建設するのはいいが、その後巨大スタジアムの後利用、メインテナンスをどうするかという大問題が発生する。他人事ながら心配になってくる。
2030年には、リヤドで大型登録博覧会が開催される。万博の開催はオリンピックよりもはるかに大変な事業であるが、この万博によって、サウジ人に大型イベントの運営能力をつけてもらいたいものだ。サウジはオイルダラーにものを言わせ世界中から万博の専門家を雇用し、乗り切るものと思われるが、サウジ人の人材育成にも役立つような組織運営を望みたい。もう一つの問題は、女性の権利、衣装、行動等に係る制約である。ムハンマド皇太子の指導の下に、ビジョン2030が策定され、女性の自動車運転の解禁、ヒジャブやアバーヤ等衣装着用の緩和等が徐々に進められている。世界から観光客が集まる2030年リヤド万博までに急激に女性の解放が進むものと期待される。それでもワールドカップでの女性の服装、肌の露出度や熱狂的な応援シーンを見ているとまさに一般のサウジ人もびっくりという感があるが、サウジ大会でも従来の大会と同様に女性が自由に伸び伸びと応援できるようにしてもらいたいものだ。リヤド万博を2034FIFAワールドカップ・サウジ大会の前哨戦と考えたい。
表6 ワールドカップ3大会主催国の大型イベント開催経験
大会名 | 主催国 | Olimpic | EXPO | FIFA WC |
2026北中米大会 | 米国 | 4回 | 21回 | 1回 |
| カナダ | 1回 | 2回 | 0回 |
| メキシコ | 1回 | 0回 | 2回 |
2030スペイン・ポルトガル・モロッコ大会 | スペイン | 1回 | 2回 | 1回 |
| ポルトガル | 0回 | 1回 | 0回 |
| モロッコ | 0回 | 0回 | 0回 |
2034サウジアラビア大会 | サウジアラビア | 0回 | 0回 | 0回 |
注:万博は1851年ロンドン博以降。メキシコは今回で3回目のWCの開催国
筆者による過去の「ワールドカップよもやま話」の原稿は以下の通り。
「FIFAサッカーワールドカップよもやま話」 2023年1月
https://latin-america.jp/archives/56105
「FIFA 2026 World Cup北中米大会よもやま話」その1 2026年6月
https://latin-america.jp/archives/69232



