21世紀にラテンアメリカを襲った大地震の話
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執筆者:桜井 悌司 氏(ラテンアメリカ協会&日本ブラジル中央協会顧問)
ここ数年、世界中で大地震が次々とおこっている。日本では、つい最近、2026年7月28日に「令和8年熊本大地震」が発生した。地震の規模は、マグニチュード7.1で、熊本県宇城市他では最大震度7を観測した。8月11日時点で、死者数39名を数えた。震度7を記録した大地震としては、2024年1月1日の「令和6年能登半島地震」、2016年4月14日の「平成28年熊本地震」が記憶に残る。
ラテンアメリカに目を転じてみると、つい最近、6月25日の「ベネズエラ地震」、7月17日の「メキシコ・チアパス州沿岸地震」、8月10日の「コロンビア地震」が相次いで発生した。本稿では、21世紀になってからラテンアメリカでおこった大地震を振り返ることとする。
表1は、「21世紀にラテンアメリカで発生したマグニチュード7以上の大地震」を取りまとめたものである。一部欠落している地震もあるかも知れないが、この表によると、2001年以降現在までに、ラテンアメリカで発生したマグニチュード7以上の大地震数は56件に達する。いくつかの特徴を見てみると、第一に数多く発生する国は、ペルー14件、メキシコ12件、チリ7件、中米が合計16件となっている。今回、地震に見舞われたベネズベネズエラは、2件、コロンビアは、3件であった。第二に、マグニチュード8以上の大地震は、56件の内、8件で、その内訳は、ペルー3件、チリ3件、メキシコ1件、コロンビア1件となっている。第三の特徴は、特定の年に集中していることである。例えば、2012年には、6件、2014年と2018年には、5件、2017年、2021年、2025年には、4件、2016年、2019年、2026年には、各3件となっている。
ちなみに、過去にラテンアメリカで発生し、死者数の多かった大地震10を表2で紹介する。以下、いくつかの大地震を紹介する。
「コロンビア大地震」
発生日:2026年8月10日
マグニチュード:7.4 震源の深さ110Km
震源地:チョコ州サン・ホセ・デル・パルマル市
タイプ:プレート境界型地震
被害:2026年8月18日付け日本経済新聞によると、死者数287人、負傷者数4147人、行方不明者数194人、約12万戸住宅が被災。カリ、ペレイラ、キブド、マニサレスなどで甚大な被害をもたらした。アベラルド・デ・ラ・エスプリエジャ大統領が。8月17日に発表した数字によると、地震による経済損失が30兆ペソ(95億8000万ドル)に達するとの見通し。またUNGRID(国家災害リスク管理ユニット)は、死者288人、負傷者4,611人、行方不明者290人、住宅は回数29,000以上と報告している。
コロンビアでは大統領選挙の決選投票が6月21日に行われ、右派のデ・ラ・エスプリー
ジャ氏が勝利し、8月7日に就任、その3日後の大地震であった。それだけではなく、左派
の前大統領グスタボ・ペトロの政権運営によって、国庫が空っぽになった国を引き継ぐとい
う事態の中、しかも政党間の対立により通常の政権移行が行われなかった中での地震発生で
あった。
過去に起こったコロンビアでの大地震と言えば、2016年7月31日のマグニチュード
8.0,2012年10月1日のマグニチュード7.2でそれ以来の大地震であった。コロ
ンビア政府は、国家非常事態を宣言し、被災地での救助活動を開始した。ペレイラ、アルメ
ニア、マニサレス、ギブド、カルタゴ、ブエナベントゥーラ、カリの7ヶ所の空港が運用を
停止した。日本政府は、8月17日、コロンビア政府からの要請を受け、コロンビア地震被
害に対し、国際協力機構(JICA)を通じ、緊急援助物資(テント、毛布、ポリタンク、浄水
器、スリーピングバッグ等)を供与することを決定した。米国政府は、1,550万ドルの支援を
表明している。またコロンビア財務省は、世界銀行から2億㌦の融資を取り付け、第1回の支払
いを前例のない速さで実行したと大統領は語っている。また大統領は、「再建の奇跡計画」を政府
のイニシアテイブで提案し、建設業者、金融セクター、保険会社、知事や市長に国家再建のた
めの協力を呼び掛けている。
世界的に有名なコロンビア人歌手シャキーラが、母国コロンビアを襲った地震で被害を受
けた学校の再建支援のため、125万ドル(約1億9900万円)の初期支援を行うことを特に
大きな被害を受けた地域へのサプライズ訪問中に発表した。
「メキシコ・チアパス州沿岸大地震」
発生日:2026年7月18日
マグニチュード:M 7.4 震源の深さ:10km
震源地:メキシコ・チアパス州沿岸プエルト・マデラの南西71km
タイプ:沈み込み帯地震
被害:死者:0 負傷者:4人、損傷家屋:数ダース 中央アメリカでは津波の警報があった。地震の大きさの割には、人的被害が少なかった。
表1によると、メキシコ・チアパス州で21世紀に発生した大地震は、2014年7月7日 (M7.1)、2017年6月14日(M7.0)、2017年9月8日(M8.1)の3件、メキシコ南部で発生した地震2件を含めると、合計5件の大地震が発生している。2017年のマグニチュード8.1の大地震の際には、死者98人を記録している。
メキシコの太平洋沿岸、特にチアパス沿いはココス沈み込み帯の上にある。ココス・プレートが北アメリカ・プレートの下に滑り込んでおり、メキシコで発生する大地震のほとんどがこの地帯で起こっている。1985年のメキシコシティ地震(M8.0)では社者9,000人以上に達した。この地震は、メキシコシティから約350キロ離れたココス沈み込み帯で起きたが、死者の多くはメキシコシティで発生した。その理由は、メキシコシティ独特の地質にある。街は古代テスココ湖の跡地に建てられていて、厚い粘土やシルトの堆積層の上にある。地震の揺れが起きると、これらの柔らかい堆積物が波を増幅させ、岩盤の上と比較して、強い揺れを引き起こすからである。
2026年のチアパス大地震は、ココス沈み込み帯が世界でも最も強力な地震発生源の一つであることを思い出させる出来事であった。多数の余震が発生したが、チアパス州知事は公共機関の業務停止を継続し、民間部門にも協力を呼びかけた。同州の市民防災当局は、既存の準備態勢と市民の協力のおかげで、44,480人の迅速な避難が可能となり、死亡者ゼロに繋がったと述べている。
「ベネズエラ大地震」
発生日:2026年6月25日
マグニチュード:7.2、その39秒後に7.5 震源の深さ、約10KM
震源地:ヤラクイ州の州都サン・フェリペ市西のペロエス市
タイプ:横ずれ断層型地震
被害:2026年8月11日現在、死者数6,300人以上、負傷者6万人以上、53,000戸を超える住宅被害、行方不明者数については、政府の公式発表はないが、約29,000人と連絡が取れない状況。
ベネズエラは、石油収入もあって、ラテンアメリカ諸国の中でも裕福な国であったが、チャ
ベス政権、マドゥーロの政権の強権政治、経済政策の失敗もあって、域内の最貧国の一つに
なった。2014年以降、約800万人のベネズエラ人が祖国を離れた。米国は、2026
年1月2日に、ベネズエラを攻撃し、マドゥーロ大統領を拘束・拉致した。その後、マドゥ
ーロ政権の副大統領であったデルシー・ロドリゲスが暫定大統領となった。ベネズエラが大
きな政治・経済問題を抱える中で、今回の大地震が発生した。
ヤラクイ州や首都カラカス、ラ・グアイラ州に甚大な被害をもたらした。日本政府は、6月
30日に、ベネズエラ政府の要請を受け、国際協力機構(JICA)を通じ、プラスチックシー
ト、ポリタンク、浄水器等の緊急援助物資の供与を決定。6月26日から医療や復旧・
復興ニーズの把握JICAの調査団を派遣。その後、JICAは、医師や看護師らからなる医師や看護師ら43人からなる国際緊急援助隊を7月初めから2週間にわたって派遣、800人以上の患者を診察した。日本政府は、国連世界食糧計画(WFP)を通じて、食料(150万米ドル)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)を通じて保健・医療(100万米ドル)、国際移住機関(IOM)を通じて、シェルター、生活必需品(100万米ドル)の合計350万ドルの緊急無償資金協力を行った。大谷翔平が、熊本地震、カナダの山火事、ベネズエラ地震に対して100万
ドル以上の寄付を行ったことも注目に値する。
「ハイチ大地震」
発生日:2010年1月12日
マグニチュード:7.0 震源の深さ 13KM
震源地:首都ポルトープランスの西南西25km
タイプ:内陸地殻内地震(直下型地震)
被害:死者約316,000人、被害額は約80億ドルと推定。
ラテンアメリカの最貧国であるハイチで発生した大地震。パンケーキクラッシュによって大統領府や国会議事堂が崩壊した写真は世界的に報道された。死者数の316,000人は、1556年に発生した中国華県で発生した際の約83万人の死者数に次ぐものである。死者が多数に上った原因は、地震の規模だけでなく、首都直下型地震、建物の脆弱性、貧困から生ずる無秩序、政治的混乱による救援活動の遅れ等複合的な要因が重なったためである。
日本政府の活動も迅速であった。政府は、2010年1月14日に、まず500万ドルを上限とする無償援助や、3000万円のテントなどの援助物資を供与すると発表。1月15日には、医療チームの派遣も決定、医師、看護師の団員より構成される総勢25名の医療チームを翌日、JALのチャーター便で出発、現地での2週間の活動を開始した。活動拠点は、首都ポートプランスから20KM離れたレオガンに置かれたが、日本チームは最初の医療支援団体であったという。
医療チームの活動を引き継ぐ形で、2010年1月20日、防衛省は、陸上自衛隊第13後方支援隊長以下100名からなる「ハイチ国際緊急医療援助隊」の派遣を決定し、翌21日、同隊は現地に向け日本を出国した。さらに2月5日、国連平和維持活動 (PKO) として陸上自衛隊約350人をハイチに派遣することを閣議で決定、8日に第一陣が出発した。日本政府による支援額も合計7,500万ドルとなった。
偶然だが、2010年2月22日から3月7日にかけて12日間ばかり、JICAの短期専門家としてドミニカ共和国輸出投資促進センター(CEI-RD)に派遣されていた。地震でポートプランス空港が大きな被害を受けており、使用できないこともあり、サントドミンゴから陸路でポートプランスまでJICA関係者や支援物資が運ばれていた。またCEI-RDの展示場でドミニカ共和国からの支援物資が展示されていたことを思い出す。
「チリ・マウレ大地震」
発生日:2010年2月27日
マグニチュード:8.8 震源の深さ 35KM
震源地:コンセプシオン市の北北東107km
タイプ:低角逆断層型(プレート境界地震)、 海溝型地震
被害:チリ内務次官庁の発表によると死者数は525人、行方不明者25人。また、チリ国内務省の2010 年3月20日の公式発表によると、死者 :342名 ・行方不明者: 97名 ・被災者 : 80万人以上 ・被害総額 :296億 US ドル(約3兆円)となっている。津波も発生し、日本にも影響があった。
マグニチュードは、第1報でM8.5、第2報でM8.6、第3報でM8.8となった。チリでは1960年5月のチリ地震(マグニチュード9.5)に次ぐ規模であった。チリ人は、27Fと呼んでいる。
日本政府は、緊急救援活動を始める準備があることを表明したが、チリ政府により国際緊急援助隊医療チーム派遣のキャンセルの申し入れがあり、実現にいたらなかった。日本地震工学会と日本建築学会は、チリに調査ミッションを派遣し、「2010年2月27日チリ・マウレ地震被害調査報告書」を発表している。
この地震が発生した当時、筆者は前述のようにドミニカ共和国に滞在していた。現地の新聞は、1面で連日大々的に報道していた。その中で、コンセプシオン市では、一部略奪行為が起こっていると報じていた。1985年3月のチリ大地震(マグニチュード7.7)の際には、サンテイアゴに駐在しており、直接に体験したが、その際には、略奪行為も発生せず、チリ人のボランテイア精神の高さに感心したものであったが、新聞記事を読んで悲しく思ったことであった。
表1 21世紀にラテンアメリカで発生したマグニチュード7以上の大地震
発生年月日 | 地域・国・名称 | マグニチュード |
2001/01/13 | エルサルバドル | M 7.6 |
2001/06/24 | ペルー | M 8.4 |
2003/01/21 | メキシコ南部 | M 7.6 |
2007/08/15 | ペルー | M 8.0 |
2010/01/12 | ハイチ | M 7.0 |
2010/02/27 | チリ・マウレ | M 8.8 |
2011/08/24 | ペルー | M 7.0 |
2012/03/20 | メキシコ南部 | M 7.8 |
2012/03/25 | チリ中部 | M 7.2 |
2012/04/11 | メキシコ太平洋沖 | M 7.6 |
2012/08/27 | エルサルバドル | M 7.4 |
2012/09/05 | コスタリカ・グアナカステ | M 7.6 |
2012/10/01 | コロンビア | M 7.2 |
2012/11/08 | グアテマラ南部沖 | M 7.4 |
2013/09/26 | ペルー沿岸 | M 7.2 |
2014/04/01 | チリ・イキケ | M 8.2 |
2014/04/18 | メキシコ・ゲレロ州 | M 7.2 |
2014/07/07 | メキシコ・チアパス州沿岸 | M 7.1 |
2014/08/25 | ペルー中部 | M 7.0 |
2014/10/14 | 中央アメリカ沖 | M 7.4 |
2015/09/16 | チリ・イヤベル | M 8.3 |
2015/11/25 | ペルー/ブラジル国境 | M 7.5 |
2016/04/17 | エクアドル沿岸 | M 7.8 |
2016/7/31 | コロンビア | M 8.0 |
2016/11/25 | 中央アメリカ沖 | M 7.2 |
2016/12/25 | チリ南部 | M 7.6 |
2017/04/25 | チリ中部沖 | M 7.1 |
2017/06/14 | メキシコ・チアパス州沿岸 | M 7.0 |
2017/09/08 | メキシコ・チアパス州沖 | M 8.2 |
2017/09/20 | メキシコ中部 | M 7.1 |
2018/01/10 | 中米ホンジュラス北方 | M 7.6 |
2018/01/14 | 南米西部ペルー沿岸 | M 7.3 |
2018/02/17 | 中米・メキシコ・オアハカ州 | M 7.2 |
2018/08/22 | 中米・ベネズエラ沿岸 | M 7.3 |
2018/08/24 | 南米・ペルー/ブラジル国境 | M 7.1 |
2019/02/22 | ペルー/エクアドル国境 | M 7.7 |
2019/03/01 | ペルー中部 | M 7.1 |
2019/05/26 | 南米・ペルー北部 | M 8.0 |
2020/01/29 | キューバ | M 7.3 |
2020/06/24 | 中米・メキシコ | M 7.7 |
2021/07/22 | 中米・パナマ南方 | M 7.0 |
2021/08/14 | 中米・ハイチ | M 7.2 |
2021/09/08 | 中米・メキシコ | M 7.4 |
2021/11/28 | 南米西部・ペルー北部 | M 7.4 |
2022/05/26 | 南米西部・ペルー南部 | M 7.2 |
2022/09/20 | 中米 | M 7.6 |
2022/09/22 | 中米 | M 7.2 |
2024/06/28 | 南米西部・ペルー沿岸 | M 7.2 |
2024/07/19 | 南米西部・チリ北部 | M 7.4 |
2025/02/09 | ホンジュラス地方 | M 7.6 |
2025/05/02 | 南米西部・ドレーク海峡 | M 7.4 |
2025/08/22 | 南米西部・ドレーク海峡 | M 7.5 |
2025/10/11 | 南米西部・ドレーク海峡 | M 7.8 |
2026/06/25 | ベネズエラ沿岸 | M 7.1 |
2026/07/17 | メキシコ・チアパス州沿岸 | M 7.4 |
2026/08/10 | コロンビア | M 7.1 |
表2 ラテンアメリカで発生した10大地震(Latin America’s 10 deadliest earthquakes)
発生年 | 地震名 | マグニチュード | 死者数 |
2010年 | ハイチ地震 | 7.0 | 316,000人 |
1868年 | エクアドル・コロンビア地震 | 7.7 | 約70,000人 |
1970年 | ペルー地震 | 7.9 | 66,794人 |
1797年 | エクアドル地震 | 8.3 | 約40,000人 |
1939年 | チリ地震 | 8.3 | 約30,000人 |
1812年 | ベネズエラ地震 | 7.7 | 約26,000人 |
1868年 | アリカ地震(チリ) | 8.5 | 約25,000人 |
1976年 | グアテマラ地震 | 7.5 | 約23,000人 |
1797年 | ベネズエラ地震 | N/A | 約16,000人 |
1861年 | アルゼンチン | N/A | 約14,000人 |
出所:ロイター
筆者による、地震関係の記事
「恐怖のサンテイアゴ大地震」 2019年1月
https://latin-america.jp/archives/33764



