私の選んだブラジルの名曲集 その1
- Wakana Iwata
- 5月27日
- 読了時間: 7分
★★この記事は執筆者の許可を得て伯学コラムに掲載させて頂きます★★
執筆者:田所 清克 氏(京都外国語大学名誉教授)
今回から数回にわたり、田所清克先生による「私の選んだブラジルの名曲集」を連載させていただきます。
Dorival Caymmiの名曲「海」(O mar)を聴きながら、バイーアに思いを馳せる ① Eu que devaneo,ouvindo a obra prima musical de Dorival Caymmi
バイーアは私にとって黒人文化研究の対象であったばかりか、お気に入りの土地であった。であるから、40回あまりこれまで訪ねは郷愁に似たものを味わったものである。
残念ながら健康上の問題でもう赴くことはできない。大西洋に面する高級レストランIemanjáと、Dorival Caymmiの歌にうたわれたItapuãの緑なす怒涛の海浜での想い出が頭を過る。
そうした数々のバイーアへの想いというか、saudadeを癒すために、大好きなCaymmiの楽曲を機会あるごとに聴いては紛らわせている。
生粋のバイアーノであるDorival Caymmiは、Jorge Amadoとも親交があったので、彼の傑作『カカオ』(Cacau)を訳した者にとっては、愛着がある。
次回、Dorival Caymmiの名曲を拙訳で紹介したい。
Drival Caymmiの名曲「海」(O mar)を聴きながら、バイーアへの思いを馳せて ②
O mar O mar O mar quando quebra na praia
É bonito É bonito
海 浜辺で[波が]砕け散る時の
海は美しい 美しい
O mar Pescador quando sai
Nunca sabe se volta
Nem sabe se fica
Quanta gente perdeu seus maridos, seus filhos.Nas ondas do mar.
海 出猟すると漁師は いつ戻ってくるかどうか
決して分からないし、どこにいるかどうかも分からない。
海の波浪の中で、一体どれだけの人(妻)が自分の夫や息子を喪ったことだろう
O mar Quando quebra na praia
É bonito É bonito
Pedro vivia da pesca
Saia no barco
Seis horas da tarde
海 浜辺で波が砕け散る時
美しい 美しい
ペドロは漁業を生業にしていた
雀色時の六時に
漁り船で出かけていた
Só vinha na hora do sol raiá
Todos gostavam de Pedro
E mais do que todas
Rosinha de Chica
A mais bonitonha
E mais bem feitinha
De todas as mocinhas lá do arraiá
お天道様が顔を出す時にしか帰って来なかった。
誰もがペドロが好きだった
そして、誰よりもロジーニヤ・デ・シッカが可愛らしく
あの村の全ての乙女の中でもっとも躾けられていた
Pedro saiu no seu barco
Seis horas da tarde
Passou toda a noite
Não veio na hora do sol raiá
Deram com corpo de Pedro
Jogando na praia
Roído de peixe
Sem barco sem nada
Num canto bem longe do arraiá
雀色時の六時に
ペドロは自分の漁り船で出かけた
夜通し過ごした
お天道様が顔を出す時刻に帰っては来なかった
ペドロの遺体が見つかった
浜辺に打ち付けられ
魚にかじられて
漁り船も何にも跡形もなく
村からずいぶん遠く離れた辺鄙なところで
Pobre Rosinha de Chica
que era bonita
Agora parece que endoi-deceu
Vive na beira olhando pras ondas
Andando, rondando
Dizendo baixinho
Morreu, morreu
Morreu, oh
美しかった哀れなロジーニヤ・シッカ
いま彼女は岸辺で波を見ながら暮らしている
歩いたり歩き回り
低い声でつぶやきながら
死んだわ、死んだわ
あぁ、死んじまったわ
O mar Quando quebra na praia
É bonito É bonito
海 浜辺で波が砕け散る時
美しい 美しい
●意外に簡単な歌詞と高をくくっていたが、De to-das as mocinhas lá do
arraiáの一節のように、分からないところもあり、明らかに誤訳をしていることを承知で、投稿しています。

甘いメロディと詩的な歌詞で「黒いオルフェ」(Orfeu Negro)サウンドトラック[trilha sonora ]に収録された、ブラジル音楽を象徴する「カーニバルの朝」(Manhã de Carnaval)
A música que me aprisionou na música brasileira foi, sem dúvida
nenhuma, Manhã de Carnaval. Essa música simboliza a música do
Brasil. E foi gravada na trilla sonora de Orfeu Negro.
ブラジル音楽のなかで、私を虜にした歌曲は疑いもなく、Manhã de Carnavalである。
それが単にカーニバルへのオードあるばかりか、愛する人への限りない愛のメッセージを抒情的に表現しているからに他ならない。
それ故か、米国のジヤズ界でも伝統的なものとなり、多くの国際的なアーティストによって演奏されている。1950年末期のbossa nova確立に向けて大いに寄与したのは言うまでもない。
1959年の映画Orfeu Negroの中で流れるLuiz Borfá作曲のこの音楽を聴いてからというものは、私の脳裏に焼きついて離れない。
青春時代の私とても、愛する人の瞳や笑い声を詩に託して歌ったことがあるが、Manhã de Carnavalはまさしく、情愛や再会の希望などを歌に反映したものであろう。
映画の舞台も歌も、リオがもつともふさわしい気がする。今日も、Yoshimura Keiko さんなどのボサノバ歌手は、Manhã de Carnavalを歌っておられることだろう。
愛と音楽が一体となった名曲中の名曲で、この楽曲と映画を介して、リオの想い出に浸っている今の私である。

内容は異なれど故里へのやるせない熱い思いを吐露したいGreen Green Grass of Homeと、結局のところ自分の居場所は古里であることを悟り、帰郷した者を歌にした O Portão.
学生時代の私は暇さえあれば、トム・ジョーンズが熱唱する「想い出のグリーン グラス」を聴いたものである。汽車から降り立ったら、両親が出迎えているシーン。青々としたわが家の芝生。幼少の頃遊んだオークの木。金色に輝く少女メアリーの髪、等々。
が、そうした古里の過去の想い出は、単なる夢に過ぎなかった。目を覚ますと、灰色のコンクリートの壁に取り囲まれた監獄であり、神父立ち会いのもとに、人生の終わりを迎えようとする、死刑囚。その独房で見た一時の死刑囚の夢を、作詞家にして作曲家のカーリー・プットマンは歌に表現した。
同様、ブラジルのポピュラー音楽にあって名高いO Portãoも、長い不在のあと、故郷こそ自分のidentityの根源であり生きる場所であることを悟り、帰郷した者を歌った曲として知られている。
双方の楽曲とも名曲中の名曲であり、後者の OPortãoは留学時に、全盛期のRoberto Carlosの甘い声でよく聴いたものだ。次の回に、自信はないが、拙訳でO Portãoを紹介したい。
極刑を前にした死刑囚の夢みた故里での想い出と、古里こそ自らの居場所と悟った主人公の歌= O Portão --故里こそわが住める所--
Eu cheguei em frente ao portão
Meu cachorro me sorriu latindo
Minhas malas coloquei
no chão
Eu voltei
僕は[故郷の家の]玄関の前に着いた
僕の犬が吠えながら僕に微笑んだ
僕はスーツケースを地面に置いた
僕は戻って来たんだ
Tudo estava igual como era antes
Quase nada se modificou
Acho que só eu mesmo mudei
E voltei
全てが以前同様であった
ほとんど何も変わってはいなかった
変わったのは僕だけのように思える
で、僕は戻って来たんだ
Eu voltei agora pra ficar
Porque aqui, aqui é o meu lugar
Eu voltei pras coisas que eu deixei
Eu voltei
今度は居着くために僕は戻って来たんだ
何故なら、ここ、ここは僕の場所だから
残した物のために僕は戻って来たんだ
Fui abrindo a porta deva-gar
Mas deixei a luz entrar primeiro
Todo meu passado ilumi-nei
E entrei
ゆっくりと扉を開けた
が、僕は中に入る前に光を入らせ
僕の全ての過去を照らし出した
そして僕は家の中に入った
Meu retrato ainda na parede
Meio amarelado pelo tempo
Como a perguntar por onde andei
E eu falei
僕の肖像はまだ壁にかかり
時の経過で、セピア色に半ばなっていて
僕が彷徨い歩いていたのかを尋ねるかのようであった
それで、僕は言った
Onde andei não para ficar
Porque aqui, aqui é meu lugar
Eu voltei pras coisas que eu deixei
Eu voltei
僕が歩いたところは居着けるところではなかつた
何故なら、ここ、ここが僕の留まるところだから
残した物のために僕は戻って来たんだ
Sem saber depois de tanto tempo
Se havia alguém à minha espera
Passos indecisos caminhei
E parei
長い時の後、僕を待っている誰かがいるのかどうかも知らず
不安な足取りで歩きそして立ち止まった
Quando vi que dois braços abertos
Me abraçaram como antigamente
Tanto quiz dizer e não fa-lei
E chorei
大手を広げた歓迎の腕が見え
昔のように抱擁してくれた
しきりに話したかったが言葉も出ず
そして、僕は泣いた
Eu voltei agora pra ficar
Porque aqui, aqui é o meu lugar
Eu voltei pras coisas que eu deixei
Eu voltei
Eu parei em frente ao por-tão
Meu cachorro me sorriu latindo
今度はここに居着くために戻って来たんだ
何故なら、ここ、ここは
僕の留まるところなんだから
残してきた物のために僕は戻ってきたんだ
僕は玄関の前に着いた
僕の犬が吠えながら僕に微笑んだ
以上