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ブラジルの素顔「5度目のブラジル / 嗚呼ブラジル、学びは続く その2」

加藤 巌 氏

前回の執筆から時間が空いてしまいましたが、今まで同様、多くの人に助けて貰いながら 5 度目のブラジル生活は順調、かつ眼が回るように忙しく流れています。このコラムの過去の号で少し触れたことがあると思いますが、私が初めてブラジルの土を踏んだのは、まだ日本からの直行便が存在していて、記憶によると東京からサンパウロへは、合計2ストップ、東京-ロサンゼルスでワンストップ、次にリオデジャネイロでワンストップしていた時代でした。

現在と比べると海外帰国子女がまだ少なかった時代に来伯した私は、選択検討をせずにサンパウロ日本人学校の中等部へ編入したものの、とある理由から半年もしないうちに、これまた当時はレアケースだったインターナショナルスクール(当時はアメリカンスクールと称していました)に編入した経験があることで、日本人学校時代もそうですが、インタ-ナショナルスクールでも多くの友人に恵まれました。また前職の金融機関に入行してすぐのタイミングで業務研修生としてミナス・ジェライス州のカトリック大学に聴講生として勉強させて貰った時代、また現在の財務省、当時の大蔵省の外郭団体である半官半民のような組織に出向をさせて貰ったことで、南米諸国の中央銀行総裁や財務省大臣、次官級の方々、IMF や米州開発銀行等へも定期的に訪問することも出来たので、実に多くの方々と知り合いになることが出来ました。

今でも続いているご縁のある方もあり、日本人のみならずブラジル、アルゼンチンの富裕層、政財界の実力者、多国籍企業の海外駐在員の子息にあたる友人達を得ることが出来、その広がりは実にバラエティーに富んでいて、国籍は覚えているだけでもブラジル、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツ、スウェーデン、ユーゴスラビア、デンマーク、韓国、中国に渡りました。

その接点が繋がった最近の事例を少し挙げてみます。現在勤務している会社の法務部が契約をしている葡語/英語の通訳者ですが、私が通学していたインターナショナルスクールの後輩だったり、ブラジルに勤務中のある総領事と面談する機会があったのですが、彼はミナス・ジェライス州で研修生時代に知り合っていた人で、今回深く業務でお世話になることになったりと、本当に人生の巡り合わせに感謝をしている今日この頃です。


そんなブラジルを中心とした中南米での多くの経験から、相変わらず「ブラジルのことは何でも知っていますよね?〇〇について、教えてください。どのように考えたらよいのでしょうか?」という相談を多く頂きます。まだまだ私の「学び」は続いていますので、その気付き、ビジネスチャンスの一部を今号でも紹介させて貰います。


【ブラジルのキャッシュカードの謎】

前号で記載したように PIX(ピックス)というブラジル独自の即時資金移動システムが存在することに加えて、治安が悪いことを主な理由に、日本で生活していた時よりも現金を持ち歩く機会は相当に減っています。

でもそうは言っても多少の現金は必要ですので、当地でも必然的に商業銀行を利用しています。私の場合、各種体験やアプリケーションの使いやすさ、システムの成熟度・投資規模等を勘案して、当地に存在する日本でいうところのメガバンク 2 行と付き合っています。

そして年間に 3 回ぐらいの頻度でこれらのブラジルの代表的金融機関の支店内のパトロール調査を兼ねて、支店に赴き、現金を引き出します。先日ちょっとした理由から現金が必要になることが予想されたので、先に記述したメガバンクの富裕層専用チャネルの支店に行きました。当地の場合、セキュリティーの観点から日本の金融機関と違って、入口は一人ずつしか入店出来ない方式になっており、しかもパナマ運河のように入口のドアが開いて入室すると、通過したばかりの入口のドアが閉まって、その次にある店内に続くドアが開くまでは店内に入ることが出来ない、加えてその滞留する空間の横には自動小銃を携帯した守衛がいて、彼らが私が本当に顧客かどうかを値踏み?して入店を許可するといったプロセスが必要になります。そんな面倒な入店プロセスをクリアして、ようやく店内にある ATM の前に進み、持参したキャッシュカードを使おうとしたところ・・・・・・エラー発生・・・・・でした。

「あああー、磁気エラーかいな?」

と考えてATMのすぐ横にある総合受付にいた行員に、自分は現金を引き出しに来たこと、キャッシュカードが機能しないこと等を説明したところ、指紋認証で本人確認をしたうえで彼女から回答がありました。

「あー、なるほどね。セニョール、このカードは昨年 11 月からブロックされているね」

サラッと言われたのです。

がーん、です。

「なぜ?」と尋ねても、私は受付であり、担当じゃないからわからん、と。まあ、そうだよね。そうだよね。と思い直して、仕方がないので、個別ブースを構えている上席にあたる銀行員の対応を受けるべく、待つこと数分、ようやく私の順番になり、先刻既に説明したことを再度丁寧に繰り返したところ、こりゃまた驚きの回答でした。

「セニョール、有効期限が切れているよ」

ん?????? どういうことよ・・・・そうです、私の保有していたキャッシュカードはクレジットカード兼用なので有効期限があったのです。

日本でも最近は多くなっていますが、当地でのキャッシュカードは一般的にクレジットカード兼用になっていることから与信枠が設定されており、期限が来たことでキャッシュカードも自動的にブロックされたようでした。

クレジットカード機能が付随していることで、その機能の期限到来からブロックするのはわからんでもないのですが、何で連絡くれないの?と思いつつ、当初の目的遂行のために、まずは店頭にて指紋認証を使って現金を引き出して、次に新規キャッシュカード発行の手続きをする羽目になりました。単純な<現金を引き出す>という目的が約 2.5 時間かかり、ようやく終わったのでした。きっと日本であれば丁寧な言葉の説明文が数か月前に自宅や登録住所に送ってきていることを想像すると、日本の郵便事情とブラジルの郵便事情は違うとはいえ、なぜそれが出来ないのかと思ってしまいました。


嗚呼ブラジルです。


【デジタル化の進んでいるブラジル – 送金システム-PIX ピックス】

ブラジル中央銀行が 2020/11 に導入した即時決済システムの PIX(ピックス)は、すっかり国民に浸透していて、その使用実績は記録的なうなぎ上り状態のようです。システム導入当時は金融機関に在籍していたこともあり注目していたので自分で登壇するセミナーや勉強会、或いは CdNB というブラジルの情報交換会でもちょいちょい説明して来ていました。日本のマイナンバーカードの浸透する速度とは段違い平行棒です=いつまで行っても交わりません。ブラジルでは路上生活者のような人達も使っていることが一番の強みになっているものと思料します。報道によると、ついに 1 日の利用件数が約 2 億 5 千万件の送金実行の記録となったようですので この水準は最先端の IT先進国と考えるべきと思います。


嗚呼、ブラジルです。


【デジタル化の進んでいるブラジル – 不動産登記のデジタル化】もうひとつ、デジタル系の話題です。先日、業務の一環として不動産登記をする場面に立ち会いました。驚くことに不動産の所有権移転登記もオンラインで実施できました。準備として個人認証を当該政府専用のアプリケーションで事前実施する、当該不動産概要を事前登録する等が必要であり、かつ登記申請中は web上で登記官とのやり取り、例えば本人確認として自分の納税者番号を伝えたり、登記官の質問に答える等が必要でしたが、見事に 30 分もしないうちに登記申請が完了となり、その後規定日数以内に実際の登記が間違いなく完了しました。 まだブラジル全土を調査したわけでもないので、きっと州や市町村によっての取扱方法が違うかもしれませんが、流石、フィンテック全盛の国です。


嗚呼、ブラジルです。


【フードデリバリーの進化は、どの方向へ行く?】

ifood(アイフージ)、Rappi(ハッピ)といったレストランや食材、薬、日常品等のデリバリー業務が相当なスピードで浸透しています。これに加えて昨年中頃からアジア系のレストランに特化したフードデリバリーのアプリケーションも市場参入していますし、その浸透スピードの速さには、スマホの圧倒的利用台数が多いという素地があるものと言えます。先日、ある弁護士事務所が入居している商業ビルを訪問したのですが、受付の前の一等地に写真のような箱がデーンと鎮座していました。入館手続きをする時に、受付嬢に尋ねたところ、ビル内事務所の勤務者がこのフードデリバリーを使う際に利用する人がいるとのことでした。日本的な発想ですと、この箱に入れて食物は腐らないのかとか、爆弾でも入れられたらどうするんじゃ等と安全性等を主眼に議論が巻き起こるのでしょうが、流石「トライ&エラーの先進国ブラジル」です。コストとの兼ね合いについては検討余地があるのでしょうが、ここにもビジネスチャンスが転がっているのかもしれません。


嗚呼ブラジルです。


【雑事:空気が無料・・・・・】

治安状態がお世辞にも良いとは言えない当地ですが、先日「ほっこり」したことがあったので今号の最後に披露します。それは行き付けのガソリンスタンドのおじさんと話しをしていて耳にした、ちょっと驚いた、でもとても新鮮だった表現についてです。「ブラジルは空気が無料だ。こんなに素晴らしいことはないよ」確かにこの日は当地が夏に入る直前のタイミングで、日本でいうところの春先であり、気温も 23 度前後、青空が広がり、夏のようなモクモクとした巨大な雲が青い空に浮んでいるという快適な状況でありました。この発言は大袈裟に聞こえるかもしれませんが、腹に「すっ」と入る素敵な言葉であったのと同時に、私がすっかり日常の中で忘れていただけで、あまりにも的を得た表現だったのでついついコラムで披露させて頂きました。


これも、嗚呼ブラジルです。


加藤 巌 (かとう いわお)

1987年上智大学外国語学部卒業。同年住友銀行(現三井住友銀行)入行。89-90年ブラジル業務研修生、その後国際審査部、国際金融情報センター出向、ブラジル住友銀行(現ブラジル三井住友銀行)にて企画、法務、システム、経理財務を所管、ブラジル三井住友銀行及び三井住友銀行のグローバル・アドバイザリー部にてM&Aソーシング/アドバイザリー業務を中心に従事、長きにわたり中南米ビジネスへのアドバイザリー業務を実施。2021年7月末で銀行を退職し食品業界に転じて現在では5度目のブラジル生活中。ブラジルの金融、社会、政治、文化、等について、いろいろな分野での南米の専門家が情報交換や提言をする団体、日本ブラジル・クラブ CdNB (Clube do Nipo-Brasileiro)の共同主宰。


<主な執筆物>

「中南米における自国通貨のドル化の背景とその実効性」(JCIF/大蔵省委託調査)

「変動する世界の金融・資本市場(アルゼンチン)」 (金融財政事情研究会)

「日本企業がブラジルと上手に付き合うために必要なこと」 (日本ブラジル中央協会)「新ブラジル事典/第4章:金融業」 (ブラジル日本商工会議所編)

<主なセミナー活動等>

「特集ブラジル経済と不動産市場の行方」(AREAS不動産証券化ジャーナル/2016年31号)対談日本機械輸出組合主催

「ブラジル進出支援セミナー」講演経済産業省 大臣諮問勉強会

「ブラジル勉強会」へ招聘されブラジル産鶏肉について解説播磨国際協議会主催

「ブラジル経済情勢」講演上田市3商工団体共催「海外展開セミナー」講演


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